第37話 妙な旅

今、俺達はひたすら森を進んでいる。


猫(俺)、木製の老人(モル爺)、鬼(グレートオーガのウォリア)、そしてさらにもう一人……——人化した古龍が加わっている。


人化した古龍もまた筋骨たくましい巨漢の老人であった。完全な人間の姿ではなく、ちょっと爬虫類チックな特徴があちこちに残っている。(尻尾もあるしな。)


種族そのものが変わったモル爺とは違い、上級の龍種は種族を変えずに〝人型になれる能力〟を備えているのだそうだ。


人化した古龍は、容姿は〝竜人〟という種族と同じらしい。


ただ、外見は同じでも、古龍はあくまで龍種の上位種。亜人種である〝竜人族〟とは別の種である。それは本物の竜人族なら見ればすぐ分かるらしい。だが、それ以外の種族からは、外見からは区別はつかないだろうとの事だった。


ちなみにモル爺は遠目に見れば人間の老人であるが、近づいて見ると思いのほか巨漢(身長は多分3m近くある)で、また肌は木なので人間のそれとは質感が違うのが分かる。


ウォリアも少し変わった。古龍に少しコツを教わったら人化の能力を身につける事に成功したのだ。


……たぶん成功したんだと思う。鬼は元から人間に近い姿形をしていたので、サイズが縮んだだけでほとんど前と変わっていないのだ。額に小さな角もあるままだし? まぁ禍々しい鬼の形相は〝生まれつき顔がゴツイだけ〟と強弁すれば誤魔化せそうな程度には柔らかくなったが。


「サイズが縮んだだけじゃないにゃ?」と言ったら、角も隠せるようになったと実演してみせてくれた。


ただ、別に完全に人間のフリをする必要はない、〝鬼人族〟と言えばよいだろうと古龍の爺さんが言ったので、角は隠さないことにしたそうだ。


まぁ、人間だと言い張るには巨漢過ぎるしな。(このメンバーの中では一番デカイ。身長は3mを超えいてる感じである。)


まぁ容姿は鬼人族と同じでも正体はグレートオーガなので、本物の〝鬼人族〟が見ればすぐ分かってしまうだろうとの事だったが。古龍の爺様と同様、他の種族からは見ただけでは判別はつかないだろうとの事だった。


三人とも俺の何倍もデカくて、しかも全員マッチョだ。だが、俺の身長は背伸びしても1mに届かない。デカブツ三人の中に猫一匹、落差が激しい……。


俺も大分、成長はしたのだが、いまだ成長途中のようで、完全な成猫にはまだなっていない。成長が遅いというのは、やはり長命種である証拠なのだろう。


実は俺も体のサイズを変化へんげ(巨大化)させる事はできる。だが、この体が気に入っているのでする気はない。


一番歩みが遅いのは木製老人のモル爺である。(※体は俺が一番小さいので歩幅から言えば俺が一番厳しいのだが、俺は【風歩】を使って空中をスケートのようにスイスイ滑って移動しているので意外と速いのだ。)モル爺は樹木系だからなのか個人的特性なのか分からんが、動きが妙にスローモーなのだ……。仕方なく、全員その速度に合わせて進んでいる。


ただ、モル爺は歩みは遅いが体力は無尽蔵なようで、休憩をとる事もなくひたすら歩き続ける事が可能なのだが。外見は老人のようにも見えるのだが、中身は老人というわけではないからな……多分?


実年齢は億単位という超高齢だ。だが植物種には寿命はないらしいのであまり肉体的な年齢に意味はないだろう。


(※俺も完全に世界を構成する魔力と一体化できれば寿命はなくなるらしいが、現状そこまでシンクロできていないので一応寿命はあるようだ。ただそれもライフポイント変換の魔法で伸ばせるのでないのと同じなのだが。)


ウォリアもモル爺に合わせて文句も言わずゆっくり歩いている。鬼は高速で走り続けられる能力があったはずだが、戦いを好む性格が出ていない時は、意外と穏やかで紳士的な性格の奴だった。


俺と龍は空を飛べるので、その気になれば高速移動が可能なのだが、別に急ぐ理由は何もないしな。


そんな、竜人・鬼人・樹人のマッチョな三人組プラス猫の妙な旅は、どこへ向かっているかと言うと——


——目的地は〝人間の街〟だったりする。


言い出しのはモル爺。


モル爺の外見が老人なのは高齢だからではなく、年老いた人間しか見た事がなかったためだそうな。(モル爺を森の守り神として崇めていた人間の一族は、モル爺の近くには年寄りしか近づかなったようだ。)人化する時にその人間達をモデルにしたのでそのような外見になってしまったと言う。(もしかして、身長が高いのもそのせい? すごい高身長な一族だった可能性もあるな。)


別に外見なんてどうでもいいと俺は思うが、モル爺は拘るようで、若い姿に変えたいと言い出したのだ。だが、人間の若者と老人の違いが植物種であるモル爺にはよく分からない。そこで、実物を見たいと言い出したわけである。


古龍は面白がって樹の老人に同調した。


ウォリアも特に行く宛があるわけではないし、俺もこの世界の人間を見ておいてもいいかと思い、付き合う事にした。


猫になって森の中で二十年。正直、俺の中で、人間がどんな姿形だったかも段々曖昧になってきている。ここらでもう一度確認しておくのもいいかなと思ったのだ。


それに、ちょっと心配な事もあった。


話してみてすぐに分かった事だが、モル爺はどうやら常識がない。もちろん植物界の常識はよく知っているだろうが、人間の社会の常識は当然ない。


しかも、規模が惑星級だ。この惑星が誕生した頃? から生きてるらしいし、根も惑星全土に及んでいる。そのため持っている感覚もスケールが違う。


とにかく、普通じゃない。短期間だが古代魔樹の根の魔力に繋がった俺にはよく分かる。スケールが巨大で、多分、個の感覚は薄いんだろうと思う。


もう一つ、モル爺達だけで行かせると心配な事がある。それは〝魔物〟が人間の街に行ったら討伐されてしまわないか? ということ。いや、心配なのは人間達のほうか……?



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