第28話 消滅
唐突ですが、聖域を旅立ちました。
旅立とうと思った理由はこれと言って特にないんですが。気まぐれに、ふと、そう思った。といったところです。
まぁ二十年も同じ事繰り返していれば、ちょっと違うことをしてみようという気にもなるでしょう。
え? 口調が変て? それは、やっぱりちょっと緊張しているせいでしょうね。
これまでも幾度となく
しかしやっぱり…デスマス調だと、ブラック企業でサラリーマンやってた頃を思い出しますね。それを思い出したくなくて、丁寧な言葉使いは避けてたんですけどね。
うん、やっぱやめよう。
口調(いや思調?)を戻す。
ぶっちゃけ言うと、旅立とうと思ったのは、このまま引き籠もりを続けるのは、さすがに不健康なんじゃないかと思い始めたからだ。
都合二十年ほど〝聖域〟に引きこもっていたわけだが。感覚的には、このまま百年でも二百年でも籠もっていられそうだった。
この感覚は、種族的なものなんだと思っている。…多分。ケットシーってすごい長生きな(あるいは寿命が存在しない)種族なんじゃないかと思う。
(おそらく残りの寿命を表していると思われる〝ライフポイント〟も二十年経ってもまったく減ってないしな。なんなら減ってもMP―LP変換で回復できちゃうし。)
寿命が長い種族というのは、ものすごく気が長くなるんじゃないかと思う。多分。
永遠に生きる生物は、もはや、人や動物よりも、何千年もの樹齢を生きるような〝植物〟に近い感覚なんじゃないかなと。
俺も、何もせずぼーっとしていると、そのまま長い長い時が過ぎてしまいそうになる事があるのだ。
過ぎたとて何も問題はないのだが。
でも、前世の日本人だった時の記憶が、それはダメなんじゃないかと訴えてくる。忙しく生きる事を求める。何もせず、ただ時が流れるだけのような生活は、何か不安になってしまうのだ。
何もしてなかったわけじゃない。一生懸命魔力を増やす努力はしていたし。建築や彫刻で作品も随分作ったし。
だが、独りで引き籠もったままでいいのか? そんな生き方で、本当にいいのか? それは生きていると言えるのか?
どうしても……日本人だった時の生き急ぐような不安感が抜けないようだ……。
ブラック企業に勤めていた時は、そんな生活に憧れていたんだけどね。
まぁ、何もしない生活にはいつでも戻れる。
少し、世界を見て回るのも悪くないだろうさ。
なので、ちゃんと鍵は掛けてきた。
何も盗られるモノなど残してないが、〝エリクサー〟が湧く泉が壊されるのも勿体ないので。
あ、もちろん、エリクサーは大量に亜空間にストックしたので、当分足りなくなる事はないはず。というか最近は、魔力も増えたのでエリクサーに頼る必要はほとんどなくなったが。(エリクサーを俺は魔力回復薬としてか使ってないのだが。仮に怪我をしても治癒魔法で治せるので、強敵と戦う時など緊急時の魔力切れ対策でしかない。だが、魔力が増えた事で強敵がめっきり居なくなってしまったので、ほぼ必要ないのだ。だが、やはり世界は広い。何があるか分からない。どんな強敵が居るか分からないので、やっぱり持っていくことにした。)
鍵を掛けると言ったが、扉は作らなかったので鍵はない。高い土壁を魔法で作り、聖域を囲うようにして塞いでしまったのだ。できた土壁は魔法で【強化】してある。何ヶ月も掛けてこれでもかと魔力を込めたので、そうそう壊される事はないはず。出入りは、壁に魔法で穴を開ければよい。俺の魔法で作り強化した壁なので、魔力の波長が合う俺は簡単に改造できるのだ。魔力の波長が鍵代わりだな。(あるいは転移で中に直接入るという手もある。)
さらに、聖域をすっぽり【結界】の魔法で囲って保護しておいた。もともと魔物が寄り付かない結界のようなものがあるが、その外側に魔法でバリアを張った状態だ。
俺が一人で聖域を独り占めしてよいものなのか疑問が脳裏を過ったが…。
もしまた異世界から転移/転生してくる者が居たら、聖域に入れなくて困ってしまうかも?
だが、まぁ、二十年誰も来なかったのだからいいだろうと判断した。
もし必要なら、何らかの方法で連絡をしてくれ……とステータス画面のマロンの御礼状を見ながら強く祈ったら、なんとなく、OKと返事が来たような気がしたのでヨシとしよう。
そして、俺は森の中を進みはじめたのだ。風の魔法で空を駆ければ、かなり高速で移動可能なのだが、別にどこに向かうわけでもない、
まぁ完全な徒歩ではなく、【風歩】で地面の少し上を滑るように移動しているので、そこそこのスピードは出ているのだが。(前世の自転車くらい?)
地上1mくらいの高さを、スケートで滑るようにスイスイと木を避けながら進むのは結構心地よい。
周囲の魔力を感じる。それだけで、かなり広範囲の事が分かる。魔物が居ても事前に発見できる。
まぁ完全に気配を消して透明猫状態なので、魔物の眼前を通過しても気づかれる事はないのだが。
経験値がたくさん貰えそうな魔物、あるいは食べると美味しい魔物はそのまま不意打ちでサクッと斃して行く。
日が暮れる頃には止まって、木々を少し切り開いて平地を作り、【収納】してあった家を出して休む。別に木の上とかで野宿でも構わないのだが、もう聖域の中ではないのだから、雨が降るかも知れないし、朝露などに濡れるかも知れないからな。
そして翌朝、〝それ〟は起こった。
聖域が——
——消滅した。。。
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