第23話 人違い、いや鬼違い?

腕を撃たれ戦意を喪失したかに見えたハイオーガだったが、一転、表情を引き締め、俺に向かって突進してくる素振りを見せた。


だがそれはフェイントで、方向転換して【縮地】を発動……


……あ、逃げた? 


やるな。虚を突かれて一瞬反応が遅れてしまった。


判断力が早いのは優秀な戦士だとは思う。


まぁ、逃がしはしないが。


俺は逃げるオーガのに【転移】した。


【転移】は長いこと実現できていなかった魔法なのだが、魔力が二万を超えた時にできるようになった。一回で魔力を二万消費してしまう燃費の悪さなので普通なら使い物にならないのだが、泉の水を飲んでMPを回復させるという手が俺にはあるのでなんとか実用可能になった。


ただ、どうしてもワンテンポ遅くなってしまう。というか、転移するたびに小休止して栄養ドリンクを飲んで魔力の回復を一瞬でも待たなければならないわけだから、転移を使った追いかけっこはできたらしたくない。ハイオーガの逃げ足を止めたい。


俺は転移と同時に音速の弾丸を発射し、オーガの膝を撃ち抜いた。収納空間に射出した音速の弾丸をストックしておいたのだ。


(【収納】も魔力二万を超えたあたりでマックスレベルまで上達し、真空や時間停止が可能になった。それにより、運動エネルギーまでもそのまま保存する事が可能になったのだ。)


足を撃たれ、叫びながら転げ回るオーガ。


予想通り、脚を傷つけられると【縮地】が使えないようだ。


【縮地】は【転移】とは似て非なる魔法(スキル)だ。俺にも実現できていないが、おそらく〝フットワーク〟に関係があると睨んでいた。その推測は正しいようで、縮地は発動できなくなったようだ。


一応念のため、もう片方の脚も撃ち抜いておく。


それがダメ押しとなったか、ハイオーガは完全に戦意を失ってしまったようだ。腕と足を撃ち抜かれて動けないのだから当たり前か。


恐怖の表情を浮かべながら後退っていくハイオーガ。


「タ……スケテ……」


喋れるんか……


ってか、命乞いなんかされると、鬼がちょっと哀れになってきてしまう。


もう決着はついたのだから、見逃してやるか?


それともケジメはキチンと付けるべきか? 森は所詮、弱肉強食、非情な世界だ。とは言え殺すならひと思いにトドメを刺してやるのが武士の情けか?


『ソコマデニシテオケ』


!!


背後から突然声を掛けられた。


声がした方を振り返ると、そこにはもう一匹、オーガが居た。


しかも今まで戦っていたオーガより一回り以上デカイ……!


明らかに強い雰囲気(魔力)


圧倒的な強者の威圧感……!


思わず体が反応してしまい、四つ足で〝やんのかステップ〟を踏んでしまったじゃにゃいか。


やんのかゴルァ……?!


じゃなくて落ち着け。まずは【鑑定】だ。


種族:グレートオーガ

(※10年前に一度遭遇した個体)


……なんか括弧付きで注釈がついてた。


なるほど、人違い、いや鬼違いだったか。今まで俺が戦っていたのは【ハイオーガ】で、十年前に俺が殺されかけた相手(グレートオーガ)とは別の奴だったわけか。なんか、弱かったもんな。


【グレートオーガ】は、ハイオーガのさらに上位種のようだ。マックスMPは2500超。


だが、魔力量は確かにさっきのハイオーガよりはずっと多いが、今の俺に比べればまだ大した事はないな。


……ないのだが


魔力量以前に、なんというか、歴戦の戦士の凄みみたいな雰囲気、迫力を感じる。


平たく言うと顔が怖い。


ただ、そうそうこの感じ。思い出したよ。


この魔力の感じ。コイツだ、間違いない。十年前の、あの時の鬼だ。


では改めて……


『よぉ。久しぶりだな? まぁお前は俺の事など覚えては居ないだろうけどな』


……と言いたかったのだが、上手く言葉を発する事ができなかった。


なにせ生まれてから十年、誰とも会話する事がなかったからなぁ……。


慌てて発声練習をする。


「ナーゴホン、ニャホンゴホン。アーーニャーオウーー、ゴホン」


グレートオーガ「何ヲ言ッテルノカ分カラナイ……。知能ガ低イノカ」


「誰がバカだにゃ! シャべるノガ久シブリ過ギテ上手く声が出なかっただけにゃ」


グレートオーガ「バカ、トマデ、言ッテナイガ? 言葉ガ、分カルナラ——


——ソイツハ進化シテカラ、マダ年数ガ浅イ。ハイオーガ、トシテハ、マダ未熟ナ個体ダ。殺スナ」


「進化……? って、オーガからハイオーガに進化した、みたいにゃ?」


グレートオーガ「ソウダ」


「じゃぁ、そのハイオーガも、もっと成長すればグレートオーガに進化するにゃ?」


グレートオーガ「可能性ハ、アル。ガ、簡単、デハナイ。進化、ダラダラ生キテモ、ナイ。戦ッテ……強者ト戦イ続ケテ、ソノ果テニ、進化、アル。長イ時間、掛カル」


「お前もそうやって進化したにゃ?」


グレートオーガ「ソウダ。強イモノト、戦イ、全テ、斃シテキタ」


「負けた事がないってことにゃ? もし負けたら? 死ぬのか?」


グレートオーガ「ソウダ。負ケレバ死ヌ。ソコデ終ワリ。タクサンノオーガ、終ワッタ。進化デキル、少ナイ。ソイツ、モッタイナイ。


ソイツ、強者オマエト戦ッタ。生キ延ビル。モット強クナル」


「強くなる前に殺しておいたほうが良さそうだにゃ……」


グレートオーガ「弱イ奴、戦ッテモ、面白クナイ」


「俺は面白いから戦ってるわけじゃないにゃ」


グレートオーガ「戦イタイ、ナラ、俺ガ、相手シテヤル」


「望むところだにゃ。俺は、お前にリベンジしたいと思ってたにゃ」


グレートオーガ「リベンジ……?」


「お前は憶えてないだろうが、俺は昔お前と遭った事があるにゃ。あの時は逃げ……見逃してやったが、今度こそ勝……逃さないにゃ!」


グレートオーガ「俺、逃ゲタ事、ナイ。思イ出シタ。昔、戦ッタ。小サナ猫。逃ゲタ、オマエノホウ」


「ちっ、憶えてたにゃ」


グレートオーガ「今度ハ、逃サナイ」


「悪いが無理だと思うぞ? 十年経って俺も強くなったにゃ。お前はもう勝てない」


グレートオーガ「イキガルナ。尻尾マイテ、逃ゲタ、オマエ。オマエ、俺ヨリ、弱イ」


「言ったろ、俺は強くなった。お前は負ける。死ぬのはお前にゃぞ?」


グレートオーガ「戦ッテ死ネルナラ本望」


「戦闘狂かよ……。まぁそういう奴じゃにゃいとグレートオーガまで進化はしないか」


グレートオーガ「弱い、死ヌ。オマエ、弱イ。オマエ、死ヌ」


自信過剰だな。まぁ……戦闘の経験値で言ったら、俺は全然未熟だからな。グレートオーガまで進化するのに何年掛かったのか知らんが、コイツは俺より戦闘の経験が多いのは間違いないだろう。足を掬われないようにしたほうがよさそうだ。


グレートオーガ「ル」


「おう……るにゃ。リベンジマッチにゃ」


鬼が金棒を構え、鋭い殺気を発する。なかなか迫力がある。これは殺気というより、〝闘気〟とか〝覇気〟とか言ったほうがいい感じか? 魔力量は俺より少ないはずなのに、俺より強そうに思える。これが経験の差ってやつか?


……てか、〝金棒〟って、オーガ種の標準装備なんですか?


どこで手に入れてるんですかソレ???



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