冒険者ギルドの何でも屋さん

暁 黎

第1話 お姫様は突然に

昼頃から厚くなった雲は、夕刻には雨に変わった。全身ずぶ濡れの冒険者達が、ギルドの扉を開けて次々と帰還する。

「依頼書を提出して下さい。討伐証明は、そちらに。」

「誰かこれ、鑑定に回して。」

「はい、全部で7銀貨になります。」

受付嬢達が手慣れた様子で、依頼達成の手続きを熟していく。広いフロアは、冒険者達でごった返し、長い列が出来ていた。

そうなると、当然、順番を守らずにトラブルを起こすやつはいる。

「何だと、このヤロー。俺様が悪いっていうのか!」

「はあ!?割り込んだのはそっちだろーが!」

「お前、俺様が誰か分かってて言ってんだろーな。」

「知るかよ、ボケナス!」

「六番受付、出番ですよ。」

内線からの呼び出しに、ヴェルナーはため息を吐いた。

「やっぱり、俺が、行くんですか?」

受付嬢のチーフが、綺麗な顔に空寒い笑顔をはりつけて、黙ってフロアを指差した。

とっとと処理してこい、という事らしい。

鑑定用の眼鏡を置き、フロアに出ると、既に乱闘が始まっていた。

ヴェルナーは、トントンと殴り合っている男達の肩を次々と叩いた。

「みんなの迷惑だ。喧嘩なら外でやってくれ。」

「おっさんは引っ込んでろ。」

「邪魔するな。怪我したくなかったらな。」

これが目つきのヤバい筋骨隆々のギルド職員が凄むなら話は別だろうが、相手は雑魚っぽい、ひょろひょろした男だ。そんな事務員の警告など、熱くなっている男達の耳には当然入らなかった。

「そうか。」

彼は無表情のまま、パンパンと手を叩いた。

「〈麻痺〉」

不意に、男達は、ビクンと体を震わせて床に倒れた。

「〈軽量〉」

腕を掴んで入口迄引き摺ると、其処から、通りに向かってポイポイと放り投げた。

土砂降りの雨の中、男達は泥水に顔を突っ込んで次々と積み重なっていく。その余りに非常識で余りに非情な姿に、他の冒険者達は軒並み体を震わせた。

「さて。」

何の感慨も無く振り返ると、フロアには緊迫した静寂が漂っていた。

「他に誰か喧嘩したい者は?」

荒くれ者の冒険者達は、真っ青な顔でぶるぶると一様に首を振ってみせた。


ヴェルナーは再び、鑑定用の眼鏡を掛けた。魔石の大きさや純度から、ランクをつけるのが主な仕事だ。といっても、これは本業では無い。

「すみません、助けて下さい。」

『依頼受付』に飛び込んできたのは、全身びしょ濡れの17、8の美少女だった。

輝く金髪に、コバルトブルーの瞳。濡れて体にぴったりと張り付いたドレスに、豊かな胸が強調されている。

レースやフリルをふんだんにあしらったドレス。いいところのお嬢様のようだ。

彼女は胸元から、皮の小袋をカウンターに乗せた。

ガチャッと重い貨幣の音。

「私、命を狙われているんです。これで、私の母を殺して下さい。」



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