おっさんジャンボリー
オレシカ
第1話
会社帰りに自宅近くのコンビニ、ファミマルの駐車場に車を停める。おにぎりが安くても200円。
もう、100円でおにぎりも食べられないのか。
そういえばとお昼のことも思い出す。
行きつけの弁当屋がいつの間にか値上げしていて、海苔弁当が500円を超えての設定にショックを受けた。
500円は安いかもしれないけれども、その弁当屋は海苔弁320円が売りだったんだーーー。
もちろん、それでもいい。
この弁当には世話になっている。世話なっているけれども世知辛い。せめてこの値上げのくらい俺の給料も上がればいいのに。
気を取り直してこの際は初めに思い描いていたシーチキンのおにぎりを諦め、何故かレトルトのおでん(一人用)を手に取った(近くにあったのだ)。
そして、店の奥のアルコール類のコーナーを眺める。
ちょっとお高めのビールは、8月上旬という陽気の最中ではもちろん最高の選択肢である が、眼をスライドさせてアルコール強めの酎ハイ、ストロングのダブルレモン500mlを手に取った。
だいたいこういうので、だいたい満足になるのだーーーと思ったが、会計をして自動ドアを通るときのいつものファミマル的自動ドア開閉音を聞きながら車に戻り、シートに深く腰掛けると急に、なんだか身体が動かなくなった。
そうだよな、38歳。
もう若くもない。
瀬田 正行(せた まさゆき)は、息が苦しくなって、ネクタイをひっぱりシャツのボタンを2つ外した。
そこでまだ自分がクールビズが推奨されている世の中であることに関わらず、夏用とはいえビジネススーツに身を包んでいることに気が付き、上着を脱ぐ。
喉が渇いたが、まだ車を運転しなければならないのだから買ってきたばかりのストロングを今すぐ吸収するわけには行かない。
エアコンを全開にするが、息苦しさは変わらなかった。
19時に差し掛かろうとしていても、未だに太陽は片腕を掛けているのだ。それにもまして、これはまさにストレスだろう……と他人事のように考えながら、家に帰ってさっさとおでんで一杯飲もう。動画配信サイトを垂れ流して、ネットの小説なんかを読みながら。
車のエンジンを掛けているときはだいたいラジオをつけているが、流石に耳障りに感じて消そうと思ったときに、それは聞こえてきた。
”東北最大級の迷宮、宮城第三迷宮グランドオープン!!聞け、探索者。冒険はここにある!!”
探索者……。まあ、冒険者でもいいがローグライクなゲームみたいなものは、現実に存在している。
洞窟や迷宮のような場所、それも危険なモンスターが実際に存在していて、魔石というそのモンスター由来の核(コア)が主要なエネルギーだし、ダンジョン由来の魔道具もあるし、謎なジョブシステムのようなものまで。
ちょっと前に流行って今は少し下火のイメージの肉体労働系の仕事だ。
ひところはスキルが身につくだの、アイテムが有用だの騒がれたがやはり命の危険が一定数はあるというのと、流行り始まった頃にはすでに30歳半ばに差し掛かっていたということもあり……。
ただ、瀬田には縁がなかった。
瀬田が33歳となる頃、ざっくり言って世界中にダンジョンは現れて、すぐさま人類にとってなくてはならないインフラとなってしまった。
当時は大ニュースってことで確かに興味はあった。
ただ、事の真相は政府の発表のみでとにかく有用であり、エネルギー問題が解決したということと、臨時国会で探索者法なる法整備の国会答弁が話題になったり、ダンジョンの一般開放も早い段階で始まっていた。
そんな中だ。
もちろん、もしかしたら自分にもすごい才能があるのかもしれないという思いもあり、ステータス判定を受けた。
しかし、ステータス判定でランクは最低の1つ上、スキルはユニークのようだがいわゆる文字化けスキルという字面すら読めずこのままでは効能がさっぱりわからないものだったため、リスクを考えたら会社員を続けるほうが良かっただけだ。
無論、もともと運良く入れたそこそこ福利厚生のよい今の会社。
今の生活に不満もあれども全く満足していないわけではない。
でもーーー探索者。
「探索者か……」
危険はもちろんある。
年間死傷者数は年間自殺者の数と比べるほどで、今は沈静化したが何年か前はネガティブキャンペーンが大々的に行われたこともあったほどだ。
そんなことを思い浮かべていると、おにぎりを諦める判断をした自分がとても小さく見えたーーー。
やっぱ、おにぎりくらい買うかな。
そのとき瀬田は軽い気分で車を降りてまた店内へ向かった。
コンビニを出て、車で1分で自宅のアパートが見えてくる。
二階建ての木造アパートで新規採用の新米だったころから暮らしている。
大家さんが『でも、平成物件なんだよ。』と言っていたので、おそらくは築30年にはなる安普請(壁が薄い)だが、家賃は悪くないし駐車場も1台は家賃に込みは良かった。おそらく、大家さんは耐震がマアマアあると言いたかったんだろうが……。
外の階段を登り、奥から2番目の部屋だ。
下の階と二階奥にここ数ヶ月は入居がなく、瀬田の部屋の手前は瀬田よりも古株のお爺さんが一人暮らししているだけで、そのお爺さんの矢作(やはぎ)さんは面倒見のとても良い方で何より多少うるさくしても気にしないようなおおらかさがあり、そういった点でも暮らしやすい環境になっていると自分で思っている。
ドアの郵便受けのところから茶色い封筒の飛び出しているのを回収し、我が家に入るとむあっとサウナ状態の1K。
まずは、エアコン。買ってきたものは冷蔵庫に。
背広を脱いですぐにシャワーを浴びる。
あんまり細かくない瀬田だが風呂場のカビは蔓延すると面倒なので毎回軽くこするなり、薬剤散布なりで対処している。浴槽は使わない。
頭を拭きながらリビングで扇風機もオン。
おでんのレトルトは器に開けてレンジでチン。
暑いときに熱いものを喰ってやる。スマホで動画サイトを開き、適当にオススメを流してストロングを開ける!おでん、辛子をつけて、そしてシーチキンのおにぎりに、ストロング!!大平原を走り回る草食動物の長い鳴き声のような音が喉の奥から迸る。
スマホでは、なんだかよく見る有名配信者が探索者E級に昇格した報告動画が流れていた。
今までのF級ダンジョン関連収益はまだドロップも悪く1万円にもならないと言っていたが、E級ともなれば下手なアルバイトよりも稼げる(かもしれない)とのことだった。
動画の中でスライムやゴブリンみたいな底辺でも簡単にいわゆる初心者装備のプロテクターとかは溶かしたり壊したりしてくると、自分の壊れた装備も交えて収支は合わなかったとしていた。
動画が終わるとオススメで、同じ配信者の初心者講座なるものが出てきた。
まあ、自分には縁のない話だな、と思いつつタップする。
冒頭は、先程の動画と同じように自分語りから始まったので、目を離して郵便で届いていた茶封筒が気になり手に取った。
適当な性格の瀬田はあまり躊躇することなく上辺をビリビリと破く。封筒の裏を見たら成田不動産、となっていた。聞いたこともない。
読んでいくとすぐに腑には落ちる。
この成田不動産は、高齢となった大屋さんから賃貸管理を委託されたとのことだった。
流石にもう歳だったのか、自主管理でやっていけなくなったのだろう。
しかし、この委託により契約更新料というのが発生するようだった。
2年更新で一ヶ月分の家賃と同額か。
もともと家賃で選んだアパートだし1ヶ月分でいいというのであれば、年あたり半月分ということだし、そんなものなのかもしれない。
次回更新は3ヶ月後とのことだったから、すぐさまというわけでもない。
なんだか、ほんと世知辛いなあ。
動画では、魔石やダンジョン由来のアイテムの買取相場の説明。
おにぎりを頬張り、おでんをかじり、ストロングを煽る。
そうしていると、アルミ缶はすっかり中身を失ってしまった。
買い置きの日本酒に手を付けるべく、冷蔵庫へ。
四合瓶を手に取る。
「へぇ、Gランク帯のダンジョンの魔石とかドロップでも月数万とか行けんのかぁ。」なんか、思ったより簡単そうじゃないの。
日本酒とおでんの相性も最高!
そうしていると、ストロングの空き缶にシールが付いているのに気づく。
引っ剥がして開いてみるとQRコードが出てきた。
当たったら5000円分のポイント、とかかな。
動画を止めてカメラで読み取り、特設サイトに接続する。
『探索初心者セット(中級者でも使える!)ストロングコラボが抽選で5名に当たる!!』とのコピーと下にルーレット。
STARTを迷わずにタップ。ハズレ、に止まった。
まあ、そんなもんか、と日本酒をチビリ、とするところで画面が虹色に輝きルーレットがまた回りだす。
なんだ、なんだこれ、どうなってんだ。当たるのか。え?
『ストロング!!』に止まった瞬間当たりの文字と、当たった旨のSNSへの投稿の斡旋とメールアドレスの登録画面に遷移。
「ああああ、当たったな。」ストロング!!のところが当たりだったのだろう。
大当たり!!とかもルーレットにはあったが……。
瀬田は呆然とした。何が当たったんだ?探索者初心者セット?
メールアドレスを入力すると、サイトに登録のメールが来た。
メールのリンクから入ったサイトは、ストロング会員登録(無料)となっている。
なるほど、ストロング会員(無料)に登録しなければ賞品を受け取ることはできないのか。
なんだか、酔っ払ってきたな。
おでんがなくなった。
住所氏名などの登録情報を入力。
登録完了メールが到着したところで抗えない眠気が差し込んできた。
どうにか歯を磨いて寝床に入ってーーー。
数日後に、ストロングのロゴが入った小包が届いた。
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