弁護士ルート
第1話 弁護士の決意
クルニア歴1036年1月7日
『貴方は不幸にも亡くなりました。
それを私が拾い上げ、再構成しました。スキルをつけて。
貴方に与えられたスキルは"正確"。
貴方がはかる物は、その全てを正確に示すことが出来ます。
それが、どのような物でも。
この世界には、貴方と同じ境遇の方が6人います。
それでは、良き人生を』
◇◆◇◆◇◆
「はぁー……」
朝起きて早々にため息をつく。
原因は、さっきの声だ。
「なにも今更言わなくたっていいじゃないの……」
俺はもう42歳。
現実でもバリバリおじさんの年代だ。
それが、今になって異世界転生かよ。
でも……。
「心の隙間は、そういうことだったんだなぁ」
この歳で、この環境に根付いた今でも、時々無性に虚しくなることがあった。
それはさっき思い出した前世からの空虚。
「どうすっかなぁ……」
とりあえず窓開けて、空気吸ってあたま回しますか。
◇◆◇◆◇◆
俺は前世で法律関係の仕事、いわゆる弁護士だった。
目指したきっかけは些細なもんで、ドラマで誰かを助けるのがカッコよかったから、ときたもんだ。
猛勉強して大学入って資格とって、事務所入ってさあこれからって時。
一つの弁護依頼が入った。
それは、ある殺人事件の容疑者の弁護だった。
面会して、状況を見て、検察の集めた証拠を調べて。
誰が見ても、あきらかに無罪を示していた。
簡単な事件。
それは、俺の実績作りにちょうど良かった。
事務所の人たちもそう思ったらしく、俺に弁護を任せてくれた。
それからは想像通り。
簡単な事件、拙い弁護だったがそれでも勝訴。
無罪を勝ち取った。
……それまでは、良かったんだ。
しばらくして、また殺人事件が起きる。
犯人は、俺が無罪にした奴だった。
後の調査で1件目もそいつが犯人だったことがわかった。
なら、なぜ無罪が取れたのか。
そいつは検事局長の孫だったからだ。
わかった時には遅く、メディアはセンセーショナルな話題を連日連夜報道する。
俺は、殺人鬼を無罪にした無能弁護士のレッテルを張られ、事務所もクビに。
カッコよかった"弁護士"は音もなく崩れたんだ。
それからは酒に逃げるようになり、身体を壊して……ってやつだ。
俺の正義は無くなった。
でも、いつか。
もう一度、誰かを助けたいと。
そう願って、死んでいった。
◇◆◇◆◇◆
窓から通る冷たい風が、優しく頬を撫でる。
異世界での空虚の正体がわかった事に対する祝福だろうか。
「はぁー……」
今更、なんだよ。
この歳まで生きてきた。
それに今の立場もある。
アルマンドラ大陸南東にあるオルディアス自治州が俺の居場所。
州議長でもある親父も、そろそろいい歳だ。
継がないといけない。奥さんのこともある。
それでも。
「やりたい気持ちは、偽れねぇよなぁ」
前世では見つけられなかった真実。
俺の中に眠る、唯一の真実。
「いっちょやりますかぁ」
俺、ビクター・レイノール42歳。
異世界で法律相談始めます。
……なんて意気込んだはいいけど、まずは説得と場所探しだなぁ。
そんな風にぼやきながら、部屋を出てリビングへ向かう。
そしてそこには、朝食のために集まった親父アラン・レイノールと
俺の奥さんのイハナ・レイノールが居た。
「来たか」
「おはよう、あなた」
「おはよう。親父、イハナ」
軽く挨拶をしてテーブルに座る。
パンとソーセージ、スクランブルエッグにコーヒー。
ご機嫌な、いつもの朝食だ。
ソーセージは味が薄い……というか無いレベルだが、それにも慣れたもんだ。
それだけ長い間こっちに居たんだな、と思わず耽っちまう。
「あなた、どうしたの?」
「え、あ……」
どうやら、席についたものの食べずにぼんやりしちゃったみたいだ。
意気込んだのに先が思いやられるなぁ。
「もしかして、具合でも悪い?」
イハナに心配される。あー、俺情けねえ。
そんなに一歩目が踏み出せないのかよ。
いや、ここは行くしかない。
「大丈夫だよ、イハナ。
……なぁ、親父、イハナ。話があるんだ」
「……」
「どうしたのかしら?」
「俺、さ。今更なんだけど、やりたいことができたんだ。
だから、州議長は継がない」
「ええっ!?」
「……」
イハナは驚く。そりゃあそうだよな。
州議長候補の奥さんなんて、現実じゃファーストレディー候補みたいなもんだ。
それがなくなるんだもんな。
親父の方は、まぶたがちょっと動いたくらい、か?
「あなた、どういうことなの?やりたいことって、一体何なのよ?」
「いや、その……」
あー、この歳になっても親父の眼光が怖いー……。
でも、言うんだ。
「親父、イハナ、聞いてくれ。
俺は、誰かを助けることがしたい。それこそ誰からも見放されたような孤独で、縮こまってしまった人を。
州議長じゃあ、その人達に手を差し伸べられない。
俺は、そういう人達を助ける、弁護がしたい。弁護士をやりたいんだ」
「……」
「なによ……それ……」
親父は表情変わらないけど、イハナは言葉が出ないって感じだな。
それで愛想尽きるならそれでもいいさ。
痛いぐらい無言が続く。なんかいたたまれないな。
でも言いたいこと言ったんだ。
それに、こんなふうにまた誰かを助けたいだなんて……自分でも驚いている。
「薄々感づいてはいた。お前がヤキモキしているのはな。
だがビクター、それは茨の道だぞ?」
急に親父が声を上げた。びっくりしたけど、ここで意思を見せる!
「覚悟の上だ」
「そうか……少し待っていろ」
そう言うと親父は急に席を立つ。
どこに行くんだ?
しばらくしたら書類片手に戻ってきた。
どうやら書斎に行っていたらしい。
そして、それを乱雑に投げ渡してきた。
「お前も知っておろう。この自治州で議長や議員は、他国においての貴族のように扱われる。
だからこその特別な事情、儂の悩みのタネがある。」
「それって……」
「今渡したのはその1つだ。それを片付けることができたら、認めてやろう」
「お義父さん!?」
「ただし!」
ギラリとした親父の目が俺を射抜く。
まさに、百戦錬磨の議長の目だ。怖い。
「片付けられなければ、すべてを諦め継ぐことだ。よいな?」
親父……。
これは試練でもあり、餞別だ。柄にもなく泣けてきちゃうなぁ。
「ああ。ありがとう、親父」
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