第二章:流転

俺の眼前にあるのは両手、両足を木の椅子に縛りつけられた、穴の空いた眉間から大量の血を流す白石理教(しらいし みちのり)、紛う事なき俺本人だった。


糸の切れたパペットの如きそれは、黒いスニーカーに青いジーンズ、白と黒と青のボーダーのポロシャツは大量の血で汚れていた。


思わずかけ寄り、触れようとするとすり抜けた…


俺は死んだ…俺は幽霊になった……

俺の背後の2人組はやっと笑い終えて、俺の亡骸の、両手両足のロープを切り、慣れた手つきで…ノコギリで解体していくのだった。


部屋の隅にバスタブがあり、水が張られる。劇薬とかかれた一斗缶から大量の薬品を流し込み、俺の体の断片を放り込んでいく。

次第に俺の体は溶けて、原型を失っていった。

俺はただ、それを見ることしか出来ない…。

最後はバスタブの栓を抜いて、デッキブラシとスポンジで丁寧に掃除して、解体した椅子の近くも、モップでどんどんキレイにしていった。


俺は俺はコイツらが憎い……


だが俺の振り上げた拳は空を切り、叫び声は届いていない。コイツらに取り憑いてやりたい。どうすればいい、そしてなぜこんな目に遭わなければならないのか。

しばらく2人の後を追うことにした。

どうしても物理的な干渉が出来ない。

地面や壁をすり抜けられないが、扉はすり抜けられる。人体もすり抜けられる。

ヤクザ2人組のそばに張り付き、一緒の車に乗り、奴らのアジトまで付き纏う。俺は奴らに干渉出来ないが、一つだけ試してみたい事がある。


車が到着したのは、人里離れたペンションだった。奴らはそのペンションに入るなり、すぐに風呂場へ向かった。その後は酒とツマミで一杯やりだした。


ヤクザの兄貴分は、子分の事を「リュウジ」と呼んでいた。

おそらくリュウジではなく、兄貴分の方が真実を知っているはずだ。コイツらは車内でも晩酌でも、あの一件の事はほとんど喋らなかった。いい金になった、とかチョロい仕事だった、とかその程度だ。


深夜2時頃になってやっと床に着くらしい。

ついにその時がきた。夢枕に立つというが、そんな生易しいものじゃない。


呪ってやると強く念じた。


ヤクザの兄貴分のベッドにまたがり、顔を近づけ、恨みの言葉を、強い怨念をひたすらぶつけた。どれほどの時間がたったろう…


ふと俺も意識が一瞬切れ、ハッとした。

真っ暗な空間にヤクザの兄貴分が、椅子に両手両足を縛りつけられ、恐怖に慄いている。

俺は右手に拳銃を持っていた。

「あの時と逆の立場だ…」


俺は言った。

「お前を呪い殺してやる。だがその前に言え。なぜ俺を殺した!」


男は震える唇から、カチカチ鳴る歯から、わずかな声を漏らす。顔のすぐ横で銃を撃ってやった。男はわかりやすくビクッと震えた。

「大きな声で教えろ」


ヤクザの男が必死に言う。

「ひっ……きっ……きたむら…北村、北村警察署長だ…港南警察署の署長だ。俺達は奴の、命令で、アンタを拐って、バラバラにして、溶かした。全部命令されたんだ。」

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