シーン1:芸術テロ
赤くどろどろしたペンキが、振り回された鈍色の缶から飛び出す。
ぱしゃっ、と音を立て、均一な灰色を帯びたビルの壁を不均一なものにする。
ペンキ缶の持ち主はそれでも飽き足らず、スプレー缶を取り出す。
青色、黄色、緑色……ビビッドな色合いの様々な缶がプシューと息を吐き、やがて沈黙する。そうすると、缶は薬莢のごとく打ち捨てられる。
最後に、芸術家は黒のペンキ缶に指を突っ込んで、勢い任せに何かをつづる。
つづる文字にペンキの赤が垂れ、スプレーの色とも混ざって筆跡が滲む。文字がつぶれている所もあるが、確かにこう書かれている。
「機械の操り人形になるな」
そう書くと、作品を完成させた男は満足げに微笑む。顔にはスプレーの混ざった色がしみつき、着ている服には所々、まだ乾いていない画材の色がついている。
ふと周囲を見ると、いつの間にか人だかりができている。好奇、不安、迷惑など、様々な感情の混じった目たちが彼を包囲している。
人だかりの中から声が聞こえる。
「
男の満足げな笑顔が瞬時に消え、緊張を帯びる。はた迷惑な芸術家は画材を全て置き去りにして、一目散に走りだした。
「待て!!」
人だかりからカラフルな男が飛び出すのに続けて、真っ白な制服に身を包んだ4人ほどの集団が飛び出す。少しだけ色のついた足跡がついたが、歩数を重ねると消えた。
アスファルトを、10本の脚がガンガンと蹴る。建造物のブロックを超えても超えても、似たような景色が続く。どこまで行っても銀を帯びた灰色の、一定間隔で窓ガラスが配置されたビル群が続く。
ただひとつ、「ここは3-58ブロック」「ここは3-59ブロック」と書かれた無機質な数字の遷移だけが、ビル群が無限ループではないことを保証している。
カラフルな男はブロックを進み、角を左右に曲がる。それがいつまで続いても、決して速度を緩めない。白い制服の集団は、やがて少しずつ突き放されていく。集団の一人が息を切らしながら連絡する。
「目標は、4-59ブロックから、東側へ逃走中!応援を、要請する!」
集団は男を追い続けた。
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