第23話 立ち向かう厳しさ、逃げる難しさ

日を改めて、予定した日時に孤児院へ来訪した。


 「……レオンは分かるが、なんだってお前らがいるんだ?」

 「オッサンがいると何かしら面白いことが有るからな!」

 「アタシはもしものときのためよ、水属性の得意分野だからね」

 「……心強い事で」


 異世界の文化に疎い悠真の代わりに、世話役とやり取りをしていたレオンがコチラを振り返り手招きをした。近付いてみると……


 「と、言うわけで、コチラが噂のユーマ大先生です」

 「やめろ!勝手な肩書を付けるな!!あんまり期待しないで下さいよ、本当に……」


 目の前の年配の女性が、口に手を当て笑っている。


 「聞いていた噂とは違って、面白い方ですね」

 「いや、そんな大したもんじゃ無いッスよ、それで……問題の子は?」


 世話役が目線で指し示すと、部屋の隅で小さくうずくまる金髪の子どもが見える。


 「あの子か……」

 「えぇ、両親を亡くしてしまって……それも目の前で魔物によって……可哀想に」


 大人たちが話していると、元気な子どもたちが寄ってきた。ガルドが相手をしていると……カタカタカタ……と音が鳴り出す。


 「キールくん!やめなさい!」


 先程の金髪の子の周りに置いてある箱の留め具や金属の小物が細かく振動し、跳ね回る。

 他の子ども達は恐怖を、世話役達は哀れみの目線をそれぞれ向けた。その様子を見たセリアが呟く。


 「可哀想ね……無理も無いわ」

 「とは言え、このままだと危険なのは確かですね」


 ガルドは子ども達の前に立ち、自分自身を盾にしている。悠真が思わず言葉を零す。


 「俺には……俺には戦ってるように見える……逃げないように」

 「なに言ってんの?」

 「多少分かる部分は有る……多分」


 振動が落ち着いたのを見計らって、悠真がソッと近づく。


 「キールくんかな?横良いかい?」


 頷くことも、返事をすることも無いキールから少し離れた位置に、横並びに座った。しばし無言の時間が流れる。


 「なぁ、キールくん。君は子どもだ……子どもなんだ」


 なんとでも無いような様子で、悠真は呟いた。


 「俺は思うんだけどさ、君は逃げても良いと思うぜ」


 区切った言葉の後には、何も続かない。動きすら無い。少し離れたところでガルドと子ども達が遊ぶ声が響く。


 (まぁ、俺には誰も逃げて良いって言わなかったけどな……俺自身含めて)


 悠真の目は、どこか遠くの過去を見ていた。

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