第19話 俺はなにかやったらしい
日が昇り始める頃、いつものように遠くで鐘が鳴り、その音を合図にゾロゾロと道端に人が集まり始める。悠真にとっても最早習慣となっていた。腕を回したり腰を捻じったりする動きをレオンが見ている。
「ユーマさん、だいぶ体が動くようになってきましたね」
「そうだな、たかが体操と言えど馬鹿にできないな。子供の頃は意味が分からなかったんだが……今になってありがたさが身にしみる」
一通り体操を終え家に入ろうとすると、呼びかける声が聞こえた。
「おーい!ユーマってのはアンタかい?」
声の主は、灼熱の太陽に焼かれたような小麦色の肌と密度の高そうな筋肉質、そして真っ赤な髪をしている。
「俺だけど……」
「やっぱり!ガルドから聞いた通りだ!黒い髪で死んだような目!!」
「初対面なのにエラい言いようだな……」
物憂げな悠真と相反するように真っ白な歯を見せて笑っていた。
「聞いたよ、アンタ……誰でも凄い魔術を使えるようにするらしいじゃないか」
「ガルドめ……尾ひれはひれのみならず背びれに尾びれまで付けやがって……」
いつか会ったとき盛大に文句を言ってやろうと心に決め、ウンザリしたように口を開く。
「俺ができるのは精々アドバイス止まりだ、後は知らん、本人次第だからな」
「良いって良いって、取り敢えずアタシにも何か教えておくれよ!昼飯代くらいは出すからさ」
ガルドと同種の熱量を感じながらレオンに振り返る。
「あー……行っても大丈夫か?」
「僕に止める理由は有りませんよ」
「話は決まりだね、じゃあ行こうか!」
悠真は腕ごと引き摺られるように土煙の中に消えていった。
「疲れた……」
悠真が帰宅できたのは日が沈み始めた頃だった。表情から何からクタクタのヨレヨレになっている。
「おや、遅かったですねユーマさん」
「あぁ……一人で済むかと思ったんだが……あの後何人も来てな。好奇心の塊かアイツラは」
「黒髪が何かを教える……というだけでも稀有ですからね」
お茶を淹れるレオンはどこか愉快そうだ。
「どうぞ」
「ありがとう、口の中がカラカラだ……」
コップに唇を付け啜っている悠真にレオンが尋ねる。
「それで?成果の程は?」
「半々って感じだな、やっぱり個人差が有るんだな……あと、セリアの技術がトップレベルってのがよく分かった」
「そうでしょうね」
席に座ったレオンの前に、袋が置かれる。中には複数の貨幣が入っていた。
「コレは?」
「何人か面白がって俺にくれたんだよ、まるで大道芸人だよ……全く……」
「それだけの価値が有ったと受け止めておきましょう」
「とは言うがな、俺には使い道が分からんし……そもそもレオンに世話になってる身だ、だから受け取ってくれないか?」
ズズズ……とレオンの方に袋が押しやられる。
「まあ、正直助かりますが……ユーマさんは宜しいのですか?」
「良いもの悪いも無い、こうすべきだと俺は思う」
「なるほど……」
受け取った袋の中身から数枚の貨幣を取り出し、悠真に手渡す。
「念のためです、有ったほうが良いでしょうから」
「レオンがそう言うなら従うとするか」
悠真はこの世界で初めて手に入れた自分の価値をジッと見つめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます