俺のスキルが『改変者(リライター)』だった件。精霊も運命も、俺の都合で書き換えてやる

ミル

第1章:最弱スキルの真の力 編

第1話:クビを宣告されたけど、世界の仕様(バグ)を直すことにした

「ハルト、お前は今日限りでクビだ。この荷物持ち(ゴミカス)野郎」


王都にある高級酒場の個室。 キンキンに冷えたビールのジョッキを片手に、勇者レオンがそう言い放った。 鏡のように磨かれた金の髪をかき上げ、彼は俺を蔑むような目で見ている。


「……え、クビ? 急だな。俺、一応君たちの荷物運びとか、キャンプの設営とか、魔物の解体とか、全部一人でやってたんだけど」


「うるさい。俺たちが求めているのは、派手な魔法や剣技で敵をなぎ倒す『英雄』なんだよ。お前みたいな地味なスキルの持ち主が隣にいると、パーティの格が落ちるんだ」


レオンの隣で、聖女のマイアがクスクスと笑う。


「そうよ、ハルトさん。あなたのスキル、何だっけ? 『改変者(リライター)』? 文字をちょっと書き換えるだけの能力なんて、せいぜい古本の修正くらいにしか役に立たないわ」


「そうそう。鑑定士に見てもらったら『戦闘への直接的な貢献:ゼロ』だってさ。笑えるだろ?」


重戦士のゴルドが、丸太のような腕で俺の肩をバンバンと叩く。痛い。 こいつら、俺がいなくなったら誰が装備の手入れをして、誰がポーションを補充すると思ってるんだろう。


(まあ、いいか。正直、こいつらの傲慢さには飽き飽きしてたしな。説明するのも面倒だし、ここは素直に引き下がろう)


「わかったよ。今までお世話になりました」


「おう、さっさと行け。あ、その持ってる『ひのきのぼう』は置いていけよ? それ、うちのパーティの備品だからな」


「……これ、俺が自分で削って作ったやつなんだけど」


「黙れ! 勇者パーティにいた証を外の世界に持ち出させるわけにはいかないんだよ。ほら、代わりの小銭だ。取っておけ」


レオンが投げ捨てたのは、銅貨一枚。 道端でパン一つ買うのがやっとの金額だ。 俺はそれを拾い上げると、無言で酒場を後にした。


王都の門を出て、少し歩いたところにある静かな草原。 俺は一人、道端に座り込んで大きくため息をついた。


「さてと……。完全に無一文、装備もなし。あるのはこのボロ布のような服だけか」


俺は空中に指を走らせ、自分のステータス画面を呼び出す。 普通の人間には見えない、世界のシステムログ。


【ハルト・ゼンゼン】

レベル:1(※呪い:レベル固定。経験値を獲得しても上昇しません)

職業:無職

スキル:改変者(リライター)

装備:なし


「あー……。やっぱりこれ、バグってるよな」


鑑定士が「戦闘に役に立たない」と言ったのは、この『レベル固定』という不吉な赤い文字のせいだ。 どれだけ魔物を倒しても、俺のレベルは1から動かない。 でも……。


「『文字を書き換える』のが俺のスキルだっていうならさ。これ、触れるんじゃないか?」


俺は半信半疑で、画面上の『レベル固定』という文字に指を伸ばした。 すると――指先に、キーボードを叩くような奇妙な感触が伝わる。


「……え、マジで? 動かせるんだけど」


試しに『レベル固定』という文字をデリート(削除)してみる。 ポーン、という軽い音と共に、赤い文字が霧散した。


「消えた……。え、じゃあ、横にある『1』って数字も……?」


俺は『1』を消し、指で『999』と書いてみた。


リライト・パッチ 1.01 適用:

・プレイヤー【ハルト】のレベル上限を 1 から 999 に変更しました。

・ついでに、レベルアップに必要な経験値を 1 に固定しました。


直後、足元でカサリと音がした。 一匹の小さなツノウサギが、俺の足に体当たりをしてくる。 ダメージはない。俺はそいつを、ぺしっと手で叩いた。


『レベルが上がりました』 『レベルが上がりました』 『レベルが……』


「わわわ! ちょっと待て待て! 止まれ!」


脳内に響くシステムメッセージの爆音。 一瞬でレベルがカンスト(999)まで跳ね上がった。


「えぇ……。できちゃったよ。マジかよ。これ、もしかして他にも……。たとえば、この道端に落ちてる『枝』とか……」


俺は適当な木の枝を拾い上げ、その詳細ウィンドウを開いた。


【落ちていた枝】

属性:なし 攻撃力:1


「この『なし』ってところに、『神殺し』とか入れたらどうなるんだ……?」


半ばおふざけで、『神殺し』と書き込み、攻撃力に『0』をいくつか付け足してみる。


リライト・パッチ 1.02 適用:

・装備アイテム【落ちていた枝】の名称を**【神殺しの聖剣(仮)】**に変更。

・攻撃力を 1 から 9,999,999 に変更。


「…………」


手の中にあるのは、どう見てもただの枯れ枝だ。 でも、ウィンドウには『攻撃力:9,999,999』と表示されている。


「いやいや、おかしいだろ。数値がバグってる。絶対これ設定ミスだって。……ってことは何? これで叩いたら、何でも壊れるってこと?」


あまりの万能感に、逆に背筋が寒くなってきた。 これ、俺がその気になれば、世界そのものを書き換えて「今日から俺が王様です」とかできちゃうんじゃないか……?


そんな俺の不安を代弁するように、地面が大きく揺れた。


「グオオオオオオオオオオオッ!!!」


「うわっ、何!? 地震!?」


森の奥から、巨大な赤い影が飛び出してきた。 ランクAの災害級魔物、『レッド・オーガ』だ。 筋骨隆々の巨体に、血のように赤い肌。手に持った棍棒は、それだけで家を一軒押しつぶせそうだ。


「え、ちょっと待って。ここ初心者エリアの草原だよね? なんでラスボス一歩手前みたいなのが出てくるわけ?」


どうやら、俺がレベル設定を弄りすぎて、周囲のエンカウント調整までバグらせてしまったらしい。 レッド・オーガが俺を見つけ、咆哮とともに突進してくる。


「あー、もう! 来るな! テストプレイもしてないんだから!」


俺はパニックになりながら、右手に持っていた『枝(神殺しの聖剣)』を、反射的に横へ振った。 ただの素振りだ。剣術の心得なんてない。


ドォォォォォォォォォン!!!


「…………は?」


枝が空気を切り裂いた瞬間、世界から音が消えた。 いや、消えたんじゃない。俺の振った『枝』が、空間そのものを「切断」してしまったのだ。


レッド・オーガは、自分が斬られたことさえ気づかない様子で、上半身と下半身がズレて地面に落ちた。 それだけじゃない。 斬撃の余波はそのまま後方の森へ飛び、数百本の巨木を紙細工のように切り裂き、遠くに見える山の一部をV字型に消し飛ばして、ようやく収まった。


あまりの光景に、俺は持っていた枝をポイっと捨てた。


「……えー。できちゃったよ。できちゃったよ、おい。山が削れたぞ今」


冷や汗が止まらない。 これ、もし勇者レオンたちをこの枝で叩いてたら、今頃彼らは存在自体が消滅してたんじゃなかろうか。


緊急アップデートのお知らせ:

・エリアボス【レッド・オーガ】の消滅を確認しました。

・【ハルト】が【世界初:一撃で地形を変えた者】の称号を獲得しました。

・全ステータスがさらに上昇します。


「上昇しなくていい! もうお腹いっぱいだって!」


俺は必死にシステムログを閉じ、荒い息を整えた。 ……まあ、いいか。起きてしまったことは仕方ない。


「よし、とりあえず落ち着こう。まずはこの『神殺しの枝』をどこかに隠して……。そうだ、お腹も空いたし、街へ行こう」


俺はポケットに入っていた銅貨を取り出し、その表面を指でなぞった。 『銅』という文字を消して、『純金』と書き込む。


「……お、色が変わった。マジか。これ、金貨100万枚分って書き足したら……。あ、増えた。重っ! 袋が破ける!」


俺はジャラジャラと音を立てる金の山を抱え、苦笑いを浮かべた。 勇者パーティ? 世界の危機? そんなことより、まずはこの「書き換えすぎちゃう」自分の力と、どうにか折り合いをつけなきゃいけないらしい。


「まあ、いいか。とりあえず、ステーキでも食べに行こう」


俺の「都合が良すぎる」冒険が、今、最悪(最強)の形で幕を開けた。

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