第39話 始まった。長い夜 

 


男が、りおに目配せをした。


無言の合図。


りおが、立ち上がる。


「私、お茶を淹れてきますね」


従順な声。


でも、私を見る目は。


心配そうだった。


りおが、キッチンに向かう。


リビングに、男と二人きり。


沈黙。


重い沈黙。


「そうだな…」


男が、私を見つめる。


「スタイルは、実際に見てみないとわからないな」


その言葉の意味が、わかる。


わかってしまう。


「その着ている服を、脱いで」


予想していた。


でも、実際に言われると。


体が、固まる。


「あ…あの…」


「ん?」


男が、首を傾げる。


「緊張しなくて、大丈夫だよ」


優しい声。


でも、命令だ。


逆らえない。


「アイドルは、皆」


男が、にっこりと微笑む。


「同じように、ステップを踏んできたから」


ステップ。


りおも。


同じことを。


させられたんだ。


私は、震える手で。


ワンピースの裾を掴んだ。


脱ぐ。


脱がなきゃいけない。


演技を続けなきゃ。


でも。


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