第34話 朝風呂
目を覚ますために、私は露天風呂に入った。
一人で。
静かに。
朝の冷たい空気が、肌に心地よい。
湯船に浸かると、体が温まる。
女の体。
もう、少し慣れてきた。
この感覚に。
山の景色を眺めながら、考える。
これから、どうすればいいのか。
りおを、どう救えばいいのか。
その時。
足音が聞こえた。
振り返ると。
りおが立っていた。
何も纏っていない。
全裸で。
「り、りおさん…」
「入っていい?」
「あ、はい…」
りおが、湯船に入ってくる。
隣に座る。
近い。
体が触れ合いそうな距離。
「寂しくなっちゃった…」
りおが、小さく言う。
「一人で、考えてたら」
「怖くなって」
りおの声が、震えている。
私は、りおを見られなかった。
裸の体。
触れ合いそうな距離。
恥ずかしい。
でも。
その時。
頭の中に、何かが閃いた。
「そうだ!」
思わず、声が出た。
「え?」
りおが、私を見る。
「のぞみちゃん?」
「りおさん」
私は、りおの目を見た。
「私を、送ってください」
「送る…?」
「はい」
私は、深呼吸をした。
そして、言った。
「私を、女として」
「守屋さんに…いや、森さんに」
「どっちでもいいです」
「送ってください」
りおの目が、大きく開く。
「え!?」
驚いた顔。
そして。
「ドM?」
「違います!」
私は、慌てて否定した。
「そうじゃなくて」
「聞いてください」
私は、続けた。
「りおさんが受けてきたことを」
「同じように、私にもさせるんです」
りおが、混乱した顔をしている。
「どういうこと…?」
「被害者を、増やすんです」
私は、自分の考えを説明し始めた。
「私も、同じように被害を受けた」
「そうすれば」
「一緒に、訴えられます」
りおの目が、揺れる。
「でも…」
「りおさん一人じゃ、勝てないかもしれない」
「相手は、会社を持ってる」
「お金も、権力もある」
「でも、被害者が二人なら」
「証拠も増える」
「証言も増える」
りおが、じっと私を見つめる。
「のぞみちゃん…」
「私は、りおさんを助けたい」
私は、りおの手を取った。
お湯の中で。
「だから、利用してください」
「私を、証拠にしてください」
「そして、一緒に戦いましょう」
りおの目から、涙が溢れた。
「でも、それって」
「のぞみちゃんも、傷つくってことだよ」
「わかってます」
私は、頷いた。
「でも、このままじゃ」
「りおさんは、ずっと苦しむ」
「だったら」
「私が、盾になります」
りおが、震える。
「そんな…」
「できません」
「いいえ、できます」
私は、強く言った。
「りおさんは、もう十分苦しんだ」
「もう、一人で戦わなくていい」
「私が、一緒に戦います」
りおが、私を抱きしめた。
お湯の中で。
強く。
「ありがとう…」
「でも、やっぱりダメ」
「のぞみちゃんまで、傷つけられない」
「りおさん」
私は、りおを見つめた。
「これは、私の選択です」
「りおさんのためだけじゃない」
「私自身のためでもあります」
りおが、目を見開く。
「どういうこと…?」
「私も、変わりたいんです」
私は、自分の胸に手を当てた。
「ずっと、一人だった」
「誰にも本音を言えなかった」
「でも、今」
「りおさんのために、何かできるかもしれない」
「それが、私の生きる意味になるかもしれない」
りおが、じっと私を見つめる。
長い沈黙。
そして。
「本気?」
「はい」
「後悔しない?」
「しません」
「本当に?」
「本当に」
りおが、深いため息をついた。
「わかった」
「でも、条件がある」
「条件…?」
「うん」
りおが、私の目を見る。
「3日後、元に戻った後」
「のぞみちゃんが、やっぱり嫌だって言ったら」
「全部、なかったことにする」
「映像も、全部消す」
「約束して」
私は、頷いた。
「約束します」
「でも、私は変えません」
「この選択を」
りおが、また涙を流した。
「ありがとう…」
「本当に、ありがとう…」
二人で、露天風呂に浸かりながら。
新しい計画を、話し合った。
復讐じゃない。
正義のための、戦い。
りおは、もう一人じゃない。
私が、一緒にいる。
朝日が昇り続ける中。
二人の絆が、少しずつ深まっていった。
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