第12話 トイレ



もう無理だ。


限界だった。


りおの浴衣姿。


襟元から見える谷間。


淡い紫色のブラジャー。


白い太もも。


頭の中が、それでいっぱいになる。


目の前にいるのに。


手を伸ばせば届く距離にいるのに。


いや、だからこそ。


俺の体は、完全に制御不能になっていた。


「あの、すみません。トイレ…」


声が上ずる。


「あ、はい。どうぞ」


りおがにこやかに答える。


俺は立ち上がって、慌ててトイレに向かった。


ドアを閉める。


鍵をかける。


ようやく、一人になれた。


「はあ…はあ…」


荒い息。


顔が熱い。


体も熱い。


鏡を見る。


真っ赤だ。


そして、下半身が。


浴衣越しでもわかる。


最悪だ。


こんなの、りおに気づかれたら。


いや、もう気づかれてるかもしれない。


便座に座る。


深呼吸。


落ち着け。


でも、頭の中は、さっきの映像でいっぱいだ。


りおの笑顔。


りおの浴衣姿。


りおの、あの。


「ダメだ…」


小さく呟く。


でも、体は正直だった。


俺は、仕方なく。


処理を始めた。


朝から、いや、昨日からの緊張。


期待。


不安。


それが全部、今、爆発しそうになっている。


りおの顔を思い浮かべる。


いや、ダメだ。


そんなの、失礼すぎる。


でも、止められない。


手を動かす。


早く。


早く終わらせなきゃ。


そして。


終わった。


「はあ…」


深いため息。


罪悪感。


自己嫌悪。


でも、少しだけ、落ち着いた。


ティッシュで拭いて、流す。


手を洗う。


鏡を見る。


顔はまだ赤いけど、さっきよりはマシだ。


よし。


戻ろう。


立ち上がろうとした、その時。


グラッ。


視界が揺れた。


え?


立ちくらみ?


体がふらつく。


「うわっ」


膝から崩れ落ちる。


床に手をつく。


目の前が、暗い。


いや、真っ暗だ。


何も見えない。


朝からの緊張?


寝不足?


いや、何だ。


これ。


体が、重い。


意識が、遠のく。


「田中…さん?」


遠くで、りおの声が聞こえた気がした。


でも、返事ができない。


体が動かない。


目の前が。


真っ暗で。


そして。


意識が、途切れた。

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