第4話 当日



目が覚めたのは朝の5時だった。


アラームはまだ鳴っていない。7時にセットしていたはずだ。でも目が覚めてしまった。


スマホを見る。画面にはYouTubeの再生画面。そうだ、昨日MVを見ながら寝落ちしたんだ。


ベッドから飛び起きる。


今日だ。今日なんだ。


シャワーを浴びて、念入りに髭を剃る。鏡を見ながら何度も確認する。剃り残しはないか。眉毛は整ってるか。


服を着る。新しい白いシャツ。紺のチノパン。シークレットブーツを履く。確かに3センチ高くなった気がする。


鏡の前で何度もポーズを取る。大丈夫。悪くない。いや、むしろ良い感じかもしれない。


朝食は喉を通らなかった。バナナを一本だけ食べて、ペットボトルの水を飲む。


荷物を最終確認。バッグを持ち上げる。重い。でも必要なものばかりだ。


時計を見る。7時半。集合は10時。新宿まで電車で40分。


まだ時間がある。でも、落ち着かない。


「よし、行こう」


8時前にアパートを出た。


駅に着いて、電車に乗る。日曜の朝だからか、車内はガラガラだ。座席に座って、またスマホを確認する。


集合時間、午前10時。場所、新宿駅西口、ヨドバシカメラ前。


間違いない。何度見ても間違いない。


新宿駅に着いたのは8時40分だった。


西口に出る。ヨドバシカメラが見える。


誰もいない。


当然だ。まだ2時間も前だ。


ベンチに座って待つ。バッグを膝の上に置く。


時間が恐ろしく遅く感じる。


スマホを見る。8時50分。


まだ10分しか経ってない。


周りを見渡す。休日の新宿は人が多い。カップル、家族連れ、買い物袋を持った人たち。


みんな楽しそうだ。


俺も今日は楽しい日になる。そうだ、絶対に。


9時になった。


まだ誰も来ない。バスもまだだ。


そりゃそうだ。まだ1時間も前だ。


立ち上がって、少し歩く。でも集合場所から離れるのは怖い。もし何かあったら。


すぐに戻ってベンチに座る。


スマホを何度も確認する。


日付、12月29日。時間、午前10時。場所、新宿駅西口、ヨドバシカメラ前。


合ってる。絶対に合ってる。


9時半。


周りを見渡す。それらしい人はいない。i.sのグッズを持った人もいない。


不安が込み上げてくる。


もしかして、日付を間違えた?いや、そんなはずない。何度も確認したんだ。


場所?西口で合ってるよな?東口じゃないよな?


念のため、もう一度メールを開く。


『集合場所:新宿駅西口、ヨドバシカメラ前』


合ってる。間違いない。


でも、不安だ。


立ち上がって、東口の方まで歩いてみる。人は多いけど、それらしい集団はいない。バスもない。


やっぱり西口だ。慌てて戻る。


ベンチに座る。深呼吸する。


大丈夫。まだ時間がある。みんな時間ギリギリに来るんだ。そうに決まってる。


9時40分。


少しずつ焦りが大きくなる。


スマホを握りしめて、画面を見つめる。


今日だよな?今日で合ってるよな?


メールを開く。もう何度目かわからない。


『開催日:12月29日(日)午前10時集合』


今日だ。今日で間違いない。


でも。


誰も来ない。


9時50分。


周りをキョロキョロと見渡す。


バスは?参加者は?スタッフは?


何もない。誰もいない。


手のひらに汗をかいてる。


まさか、ドッキリ?いや、そんなわけない。


もしかして、場所が変更になった?メールをチェックし忘れた?


慌ててメールボックスを開く。新着メールはない。


公式アプリも確認する。お知らせはない。


じゃあ、大丈夫なはずだ。


時計を見る。


9時55分。


もうすぐだ。もうすぐ10時だ。


きっと、みんな来る。バスも来る。


そうだ。大丈夫。


深呼吸をして、集合場所をじっと見つめる。


俺の心臓は、早鐘を打ち続けていた。

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