27話目:サマーアクシデント到来
夏休み……それは甘美で淫靡な響き……。
こんな言葉が合法的に未成年に与えられるだなんて、世界はなんて罪深いのだろう。
「―――――というわけで、これにて学園は夏休みに入る! 各々、帰省するなり休むなりダンジョンで研鑚するなり、自由にするがよい。ただし、今から名前を呼ぶ者は残るように。まずヒビキ!」
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!」
そして俺はその最高に興奮する言葉を取り上げられてしまった。
はい、負けました。
期末まで時間あるし余裕やろって思ってたら、見事に物欲センサーさんがフル出勤してくれました。
おかげでダンジョン課題となるアイテムだけがピンポイントで出ませんでした。
いやさ、試行回数を増やせば勝てたんだよ?
でもダンジョンに行きたくても行きたくなかった理由がありまして……。
一番の計算違いは、怪我である。
ナイフで穴空き手袋ならぬ掌になった俺の手だが、完治まで結構な日数が必要であった。
異世界なんだし祈手の祈祷で治癒できると思っていたが、あの速度で回復できるのはダンジョンの中でだけらしい。
しかもダンジョンには入った際の肉体情報が記憶されている為、ダンジョン内で治癒させようとしてもできない。
一応、ダンジョンの戦利品には指が千切れてもすぐくっ付くような脱法お薬も存在するのだが、そういうのはすぐに買い取られるので俺の予算では手が出ない。
なので、効果の薄い祈手による治癒と、ちょっと治りやすくなる安いギリ合法お薬と、あと自然治癒に任せるしかなかった。
まぁ手に穴が空いてても演奏できるっちゃできるのだが、そこまで痛い思いをしてやる理由もないので大人しく治療に専念しつつ、色々な人と授業にちょっかいを出していた。
おかげで夏休み前の筆記試験は速攻で合格できたぜ、ガハハハ!
……いや、ダンジョンと並行しながらだと、あのテストはヤバかったのでマジで怪我の功名だった。
俺の世界でも国によって法律は違うのは当たり前だったが、こっちの世界側だとそれに種族別に違う法律まであってマジで大変だった。
しかも他の皆にとっては常識っぽい知識っぽく、異世界人の俺にだけ難易度が高い。
誰だ、こんな問題を考えた奴は!?
エトルリア先生だったわ。
文句言ったら消し飛ばされるのでズボンとブラとおクチにチャックしときます。
そうそう、余談だが色術も鉱術も祈手による治癒もダンジョンの中と外では効果の幅が違う。
なので<探索者>がレベルを上げて街一つを滅ぼすような力を手に入れたとしても、ダンジョン外ではそこまで強くないようだ。
ヨーゼフパイセンとかアラブスのパイセンクラスになると一目は置かれるらしいが、それでも騎士団が出張れば簡単に制圧できるとかなんとか。
ちなみにエトルリア先生はダンジョン外のナーフされた環境でも騎士団一個大隊(五百名以上)が土下座するらしい。
だから権力とか立場を差し出して大人しくしてもらってるんですね、分かります。
もう扱いが荒魂とかそういうのなのよ、あの人。
「他にはヤナやらアクワラも……お前らは前に手に入れとらんかったか?」
「うぇい! 他のクラスメイトに高値で売りやした! 夏休みすることないんで、今手に入れればいいやって!」
ある意味、賢い金策ではある。
課題提出できなくても夏休みがその分減るだけなので、元々学園に残るのであれば時期を見計らって売って、安くなってから買えばいいんだから。
まぁ俺はそれを転売でやろうとしたけど、取引禁止にされたせいで出来なかったけどね!
ハッ! ま、まさかエトルリア先生はそれを見越して……!?
いや、それはないな。
あの人、基本自分の部屋で飲んだくれてるしそこまで考えてないやろ。
そんなこんなで、俺が夏休みを迎えるにあたって大きな問題にぶち当たる。
物欲センサー?
いいや、それは大したことじゃない。
試行回数を増やせば、ヤツはいずれ屠れる。
一番の問題は―――――。
「みんなぁ! 実家に帰らないでぇ! 俺パーティー組めなくなっちゃう!!」
そう!
ただでさえ地雷っぽい吟遊詩人とかいう役割のせいでパーティーが組みずらいのに、クラスメイトまで少なくなったらガチでソロ攻略しないといけなくなっちゃう!!
必死の思いですがりつくと、トゥラ達が優しく声をかけてくれた。
「まったくもぅ、ヒビキってば仕方ないな~。ぼくがしばらくは残っててあげるよ」
「ありがとう、トゥラちゃま! 愛してるぅ!」
「ワタシも帰る日には余裕があるので、お手伝いさせてもらいますねっ!」
「ホルンもマジ助かる! 足でも頭でもほっぺでも舐めさせてもらいます!」
「ァゥァゥ……」
「えっ……やだ、ヨグさんったら大胆……♪」
「!?!?!?」
まぁ冗談はさておき、これで生贄は三人確保できた。
なので、これをダシにして更に煽っていく。
「あーあ! なんて優しいんだろうなーこの美少女達は! 手伝ってくれない奴いるぅ~? そんな心無いやついねぇよなぁ!?」
「しょうがねぇなぁ」
「まぁ暇つぶしがてらならいいか」
「おう、ちゃんと飯奢れよ」
うむ、これでクラスの半数は味方になってくれた。
だがそれでもまだ足りない。
俺は全員を道連れにしたいのだ。
ということで、同じ補習仲間に話を振る。
「ねぇねぇ、夏休みの予定聞いて?」
「なんでだよ」
「ねぇ! 聞いてよ! 聞いてってば!」
「めんどくせぇ女か!? あぁもう分かったよ! 夏休みなにすんだ?」
「ちょっと、も~……そんなにアタイのこと気になるの? ヒ・ミ・ツ☆ このおませさんめぇ♪」
「テメェが聞けって言ったんだろうがよぉ!!」
近年まれに見るレベルのうざいムーブである。
一度やりたかったから助かる。
「ぶっちゃけやることないのよね! 帰っても家でゴロゴロしてお盆に墓参りするだけ!」
「なら学園に残ってていいんじゃねぇか?」
「やだやだやだ! 皆でもっと遊びたい! もっと青春したい! 学園ラブコメしたい!」
「いま、おれらで遊ぶっつったか……?」
大丈夫、俺も一緒に遊ばれるから。
こう、海辺で綺麗なおねぃさんに弄ばれるなら本望だ。
「まぁそんなワケで、クラスの誰かのところに遊びに行こうかなって」
その言葉で、一気に教室がザワついた。
「でもさ、いきなりいったら迷惑じゃん?」
「いや、お前は来るだけで迷惑になると思うが」
「シャラップ! まぁそういうわけで……ここで手伝ってくれた人にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないので―――――手伝ってくれなかった人のお家にお邪魔するね☆」
「「「「えええええぇぇぇ!?!?」」」」
教室中に悲鳴が響き渡る。
最高の音楽だ、何度でも聞きたいくらいに。
「ちなみに実家の場所を隠しても無駄だ。必ず見つけてやる。予算がいくらかかっても構わない。絶対に行くからな! 絶対にだ!」
「こんにゃろう! 手伝えばいいんでしょ!?」
「この悪魔! 厄災! <混沌の墜とし児>!」
「それは事実だから罵る言葉としては適切ではない」
これでクラスの大多数が手伝ってくれるな、ヨシ!
そして、そんな俺らを冷ややかな目で見ていた≪ドルイド≫のグループはさっさと教室から出ていった。
「なぁ……このままだと、お前≪ドルイド≫のところに里帰りすることにならね?」
「いや、あそこはいいかな……うん、なんか嫌な予感がするし」
というか俺も相手も困るだけで誰も得しないだろ。
それに前にツバつけられそうになったカシェル卿とかにバッタリ会ったら、絶対にロクでもないことになるだろうし。
そんなこんなで、若干のトラブルはあったもののなんとか人員という名の道連れは確保できた。
一人は皆の為に、皆は俺の為に。
良い言葉だァ!
さぁ……一緒に地獄の夏休みを味わおうぜェ!!
そして翌日のダンジョンにて―――――
「あ、出たわ」
「ズコー!」
それはもう、あっさりと出た。
一日どころか半日で課題のアイテム出ちゃったよ。
物欲センサーくん仕事して?
いや、むしろ仕事したから出たのか……。
そして課題を提出して教室に戻ると、非難轟々の雨あられ槍銭の嵐であった。
「お前、ふざけんなよ! なんでもう出してんだよ!」
「ついさっき日程の調整終わったとこなのよ!?」
「シネ! シンデ償エ!」
皆からの温かい言葉が身に染みるぜ。
温かいというか食塩の融点を超える熱さのせいで火傷してる。
ちなみに雑学だが食塩の融点は801度。
801という数字のおかげでこれだけはしっかり覚えている。
801という数字がどういう意味を持つのか知らない子は、お母さんとママに聞いてみよう。
きっと後戻りができなくなるはずだ。
俺はギリ逃げ切った。
父親を犠牲にして。
パパ、ベタとトーンの作業頑張ってね。
俺は異世界で性癖開拓を頑張るから。
さて……あらかた暴言を受けてそっち方面への耐性もつけ終わった。
そうして夜になった頃、今後の予定を立てることにした。
取りあえずあっちの世界に帰るのは……二日か三日くらいでいいか。
あとは普通にダンジョン潜ったり、異世界観光してもいいな。
誰かのお家にお邪魔したいけど、誰にしよう?
トゥラちゃまは拝み倒せばイケそうだし、ホルンも泣いてしがみつけば拾ってくれそうだし、ヨグさんは押せば押し倒せそうだし。
イカン、これだと夏休みのお出かけが牢屋の中になってしまう。
というか実家が牢屋になる。
む~ん、自由に使える金が少ないから行動の幅が狭い。
政府の人に異世界調査のアルバイトってことで支給してもらえないかな。
そういえば異世界の料理に関するメモがあったな。
あれ見せたらワンチャンありそうな気がする。
[コン、コン]
ガサゴソとモノを漁っていたら扉がノックされた。
「うぇーい? 勝手に入って、どうぞ」
男子寮だとわりと気軽に部屋に遊びにいくことがあるので、俺も他の奴もあんまり鍵をかけてない。
というか盗まれるほど高価なもんないしね!
あと、もし美少女が夜這いに来てくれた時、鍵が掛かってたら入れないしね!
……そんなユメを、みても、いいじゃない、<探索者>なんだもの。
とかそんなことを考えていたが、扉の外の人物は入ってこない。
というかよくよく考えたら、クラスの奴だったらノックとかしねぇや。
じゃあ誰だよ!
マジで美少女の夜這い!?
それとも屈強な兄貴系の夜這い!?
確率は二分の一……俺は今度こそ報われると信じて、扉を開け放った。
そうして目の前にいたのは前者……なのだが、予想とは大きく違う≪ドルイド≫のエメトが佇んでいた。
「ヒュッ……」
思わず呼吸が止まるというド失礼な対応をしてしまったが、これは仕方がないだろう。
というか……え? マジで夜這い?
いやいや、ないない。
それだけは絶対にない。
ラブコメの鈍感系と自認している俺でも、避けられてるって分かっちゃうもん。
「あのぉ~……なんの御用でしょうか……」
恐る恐る尋ねるも、何も喋ってくれない。
怖い、ただひたすらに沈黙が怖い。
これなら屈強な兄貴が夜這いに来た方がマシだった。
……いや、それはないな。
うん、最悪の目が出なかっただけ感謝しておこう。
「……………ぃ」
「え?」
か細い声で何か言った気がするが聞こえなかった。
俺はラブコメの難聴系主人公でもあったのかもしれねえ。
「……お願いします、助けてください。もう……アナタしかいないのです」
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