12話目:仲介マージンでボロ儲け!

 ダンジョンフルーツや個人クエストの情報を求めて右往左往、五里霧中、粉骨砕身爆死……。

 最後のは違うな。

 色々と聞いて分かったことがある。


「ダンジョンフルーツあるのもうちょっと上のレベルやんけ!!」


 思わず情報をまとめたノートを床に叩きつけてしまった。

 いや、別に行けなくはないんだよ。

 そこに行く用の≪ダンジョンの挿枝≫と、そこで探索できるだけの戦力を用意さえすれば。


 行けないって言ってんのと同じだよバカ!!

 ……いや、待てよ?

 俺が行けないなら、行ける人に取ってきてもらえばいいじゃん!


「おーい、フルーツってこれで合ってんのか?」

「たぶん、そう。恐らくそう」

「曖昧だなヲイ」


 というわけで、一つ上の先輩に頼んで取ってきてもらいました。

 無論タダってわけにはいかないので、俺が貰うはずの装備をこの人たちが受け取ることになっている。

 代わりに俺は適当に要らない物とかを貰う手筈だ。


 ……うん、結局俺のやったことは仲介業でマージン貰ってるだけ。

 でもしかたねーじゃーん!

 俺そのアイテム取りにいけねーしー?

 みんな得するからいいじゃんねー!?


「おう、ヒビキ。手に入れてきたのか」

「うっす、パイセン。こっちの先輩達に取ってきてもらいました」

「お前……自分で取ってこねぇのかよ」

「だってそのダンジョン行く挿枝ないしー! レベルもちょっと高いしー! リームーなんですけどー!?」

「おっと、お前じゃまだ無理なダンジョンだったのか。すまねぇな、昔の記憶だったから完全に忘れてたわ」

「パイセン、記録とかつけてないんすか? 処々のダンジョンはどういうのだったとか」

「ボス踏破したら挿枝が成長して別もんになんだぞ? 意味ねぇだろ」


 まぁわざとボス倒さずにキープしとく理由がないなら意味ないか。

 どんどん成長させてった方が見入りも良くなるって聞いてるし。


「お、おいお前……お前の言ってたのって先輩ってアラブスさんのことかよ!?」

「あれ? 言ってませんでしたっけ」

「言ってねえよ! ≪ライカンズ≫や≪ホーンズ≫よりも勇敢な男! ≪獣骨の狂戦士≫だって知ってたらもっと持ってきてたよ!」


 おー、アラブスのパイセン超有名。

 まぁその二つ名のせいか食堂でポツンとしてたから声かけたんだけど。


「おう、お前ら。この馬鹿に頼まれて仕事したんだってな、ありがとよ」

「いえ! お気になさらず! 光栄です!」

「うん……久々に食うけどうめぇな。ほら、お前らも食えよ」


 完全に体育会系のノリである。

 女子にはモテないだろうけど、男には人気出るんだろうなぁ。

 ……もちろん、いやらしい意味ではない。

 ノンシュガージュースのカロリーくらいない。


「んでパイセン、報酬のお話なんすけど」

「おまっ……バカッ! なに言ってんだよ!? アラブスさんだぞ!」


 先輩二人が俺を手籠めにするかのような勢いで押さえつけてきたが、無理やり抜け出す。


「いやいや、だからこそっすよ? 仕事をしたのなら報酬は貰わないと! じゃないと、パイセンは人に仕事させといて何も渡さないケチな男ってことになるでしょ!?」

「ハッハッハ! そりゃそうだ。ただ働きさせる嫌味な先輩にはなりたくねぇな。ただ……ちょっとな……」

「ん? どしたんすか? あれ? まさか、まさか!?」


 言葉を濁すパイセンに、俺は食い気味に迫る。


「まーさーかー? 約束したのにー? 忘れてたとかー!?」

「バカ言え、忘れるわけねぇだろ。ただ……要らねぇ装備をやるつったがよ、質のいい装備は流石に購買で査定に出す。俺だって金が要るからな」

「そりゃそうっすよね、そこは俺も同じ意見っす。じゃあ要らない装備が出なかった感じっすか」


 ダンジョン潜れば必ず装備品が出るわけでもないし、上振れや下振れだってある。

 今回たまたま上振れを引いたから、渡せる適当な装備がないってことだろう。

 それなら別の日に出た装備でもいいんだが……。


「……いや、あるにはあるんだが……」


 恐る恐るパイセンが差し出したモノを見ると…………。


「うわあああぁぁぁ! ビキニアー―――――――」

「バカッ! シー! シーッ!」


 無理やり口を押えられ、先輩共々人力ハイエースされて物陰に引っ張られてしまう。


「アホ! 誤解されたらどうすんだよ!!」

「いや誤解も何もないですよ! これビキニ―――――」

「声を潜めろっての! だから出したくなかったんだよ!」


 まさか、まさかの! ファンタジーでお約束のビキニアーマー!

 まさか異世界で実物を見るとは思いもよらなかった!


「……えっ、パイセン? なんでこれ持ってきたんすか? 俺に着ろって意味っすか!? そういう趣味がおありなんですか!?」

「んなわけねぇだろ! 俺だって処分に困ってんだよ!」

「いやいや、処分って……こんなエロ装備、なんで持ち帰ってきたんすか。夜のベッドの上でしか実用性ないっすよ」

「実はそうでもねぇんだよ。実はこれスゲー仕掛けがあってな」

「歩く度に揺れてアハーンとかウフーンとかそういう?」

「ちげぇよ、攻撃を軌道を鎧の場所に誘導すんだよ。だから露出してるところは防御しなくていいし、なんなら軌道を誘導して剣で弾くって芸当も可能だ」


 すげぇなビキニアーマー。

 どうしてビキニアーマーにそんな機能を付けたのか小一時間くらい説教して、一晩飲んで語り明かしたいくらいだ。


「ん? それならこれ購買で売れば良かったんじゃないっすか? 性能はいいんでしょ?」

「……お前、これをアウルムの姐さんに見せる勇気あるか?」

「あー…………なるほど」


 ≪獣骨の狂戦士≫とまで呼ばれた男が、厳つい顔でビキニアーマーの査定を頼む姿を想像する……。

 うん、ヤバイ。

 笑われるくらいならまだマシだ。

 下手すると「おい、これ着て夜に俺の部屋に来いよ」ってメッセージだと受け取られたら大炎上の不祥事まったなし。

 なんなら≪ビキニアーマー狂いの戦士≫とかいう二つ名までつけられてしまう。


「じゃあ俺が代わりに査定出してきましょうか? 正直、俺の場合は色々と諦められてるところあるんで」

「どこで手に入れたか聞かれるだろうが、なんて言うつもりだ?」

「そりゃあもう、アラブスのパイセンに言われましたって」

「止めろ止めろ止めろ! 余計に情けねぇだろうが!」

「後輩にビキニアーマーを売らせにいった男くらいの汚名、被ってくださいよ!」

「嫌に決まってんだろ!!」


 嫌か、そうか、それもそうか。

 どの種族よりも勇気ある男でも、そういう勇気はないか。


「はぁ~……まぁいいか、俺関係ないし。じゃあ先輩達、これどうぞ」


 そう言ってダンジョンフルーツを取ってきた先輩達に、ビキニアーマーを差し出す。

 だが、二人とも受けとろうとしなかった。


「……あの、受け取ってもらわないと困るんすけど」

「いや……おれらはいいよ……」

「……先輩?」

「ほら……要らない物を渡すって約束だったろ? だからそれ、お前にやるよ……」

「先輩! 仕事をしたなら! ちゃんと受け取って! 役目でしょ!」

「いいって! 遠慮すんなって!」


 してねぇよ!

 本気で困ってるから押し付けてんだよ!!


「あれ、ヒビキくん?」

「ひぎぃっ!?」


 聞き慣れた声を耳にし、慌てて呪いの装備を後ろに隠して声の方向へ向く。

 そこにはダンジョンから帰ったばかりの≪ホーンズ≫であるホルンがいた。


「そんなところで、何をしているんですか?」

「いや! これは、そのぉ……ほら! 装備! 装備集めるって言ってたでしょ!?」

「そういえばそうでした! じゃあ、それはヒビキくんの装備なんですか?」


 ホルンが覗き込もうとするが、男衆が壁になってそれを防いだ。

 さすがだぞ! あれを見られたら ここにいる全員が終わりだって ばっちり理解しているんだな!


「あの……ヒビキくん?」

「いや、これは違くて! そのぉ……うん! 俺のじゃないの! 別の人の装備を譲ってもらってたの!」

「自分のじゃなくて、他の人の物? わぁっ、やっぱり優しいんですね!」


 尊敬の眼差しという名のドリルが俺の良心をゴリゴリと削ってくる。

 止めてくれホルン、その術は俺達に効く。

 たぶん弱点倍率4倍くらい効く。


「もしかして、私のだったり? ……なーんて、そんなことないですよね」

「あー……っ!」


 助けを求めるように、パイセン達の方へ顔を向ける。


「おう、御苦労だったな。手ぶらじゃなんだろ? 俺が昔使ってたダンジョンで手に入れた≪ダンジョンの挿枝≫だ」

「ウッス! ありがとうございます! 家宝にします!」

「いや、使えよ?」


 逃げやがった!

 あいつら逃げやがった!


 これで名実ともにビキニアーマーが俺の物になってしまった!


 ……いやだが、待てよ?

 冷静に考えてみよう。


 効率を考えれば、ホルンにとってこれは最高の装備だ。

 なにせ回避型の前衛なので、防具の重量は少ないほどいい。

 しかも攻撃は鎧の箇所へと誘導されるので、回避はパリィもしやすい。


 ただ一点……ビキニアーマーであるという問題に目をつぶれば!


 ……つぶれるかッ! こんなもんッ!

 目を潰しても無視できねぇよこんな問題!


「どうしたのヒビキくん? 言えないようなことなら、無理しなくてもいいんですよ?」


 あーもー!

 いくら効率厨なところがある俺でも、こんな良い子にビキニアーマーなんて渡せねぇよ!!


「ッスゥー……ごめん……これ……ホルンのじゃないんだ……!!」

「アハハ、そうですよね。困らせてしまったようで、ごめんなさい」

「ご……ごべーーーーーーん"!! お"れ"がわ"る"がっ"だァ"ーーーーーーー!!」

「えぇっ!? 急にどうしたんですか!?」


 言えぬ……言えるわけがない……!

 それを察してか、パイセン達が優しく肩を叩いてくれた。


「ああ、それでいい……お前、男だよ」

「オロローン! オロローン!」


 終始オロオロしていたホルンだったが、持病だということにしてなんとか納得してもらえた。


「あの、無理しないでくださいね? なにかあったらスグに呼んでくださいね?」


 そう言って去っていった彼女の優しさが染みる。

 主に心の傷口に、塩が塗り込まれたベクトルのものだったが。


 そうして残ったのは、ほの暗い秘密を共有した男子達だけだった。


「まぁ、なんだ……お前ならなんとか処理できるだろ。頑張ってくれ」

「他人事のようにィ!! うがああああぁぁ!! これ貸しっすからね!? 絶対に返してもらいますからね!?」


 さぁ問題はここからだ。

 俺達はどう生きるか、この呪いの装備をどうするか、それが問題だ。

 助けて! ハムレットの王子!


 ……いや、一人だけ心当たりがあるぞ?

 俺よりも効率のことを考えていて、手を出しそうな奴が……!

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