23話 憎しみは人を強くする
「退部? 女子が一人もいなくなっちゃう……」
小泉未美がマネージャーをやめると聞いて、ポカンとする河合先生。このイルミネーションやペンライト、一体誰が管理するんだ。
「ええ。興味がなくなったので」
帰って行く小泉は、大沢とすれ違った。小泉は表情ひとつ変えない。彼女は「大沢知也」という記憶を、書き換えたのだろう。おそらく「高田真理」も。去り際、痛みと美しさを併せる、バラの一言を大沢に残した。
「憎しみでは得られないものが、やっぱりある。私の二の舞にならないでね」
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大沢は部室に入ると殺気を感じた。振り向くと、アホンが立っていた。
「……僕と勝負だ、大沢くん」
「お、おいアホン! どうしたんだ!」
アホンは滅茶苦茶に大沢を殴る。これは異常だ。他の部員が止めにかかるが……
「うわっ!」
大沢はちゃんとアホンをノックアウトした。その事に腹を立てているのか、それとも悲しんでいるのか。アホンは苦しそうに息をして、大沢を睨んでいる。少し恐怖を感じたが、大沢はアホンの肩に手をかけた。
「どうしたんだ。いつも通りやってくれよ」
「……憎しみは人を強くするか、試しただけだ!」
アホンは一言呟くと、駆けだして部室を後にした。僕は……アホなんかじゃない!
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数時間後。あたりも暗くなった天唐高校。猪俣は理科準備室で息を潜めていた。
職員室は軽く下見をしたので、個人情報が書いてあるファイルの場所は知っていた。そして試しにロックを解除したら、校長の誕生日で開いた。そこで、そっくりのファイルを用意し、それらしい紙もはさんだ。これとすり替えれば、しばらくはバレない。
動き出した。お母さん、見ていてね。わたしを、守ってね。ペンライトを口にくわえて漁る姿は、まさにその手のプロのようだ。最小限の動きで、ファイルを次々とすり替えていく。すると。
【3年2組 大沢知也 坂野緑】
「誰かいるのか?」
死ぬかと思った。隆が職員室に入ってきた。気付いてはいないようだ。
「おい、優美!」
「バウっ!」
「よし、チョベリグだ。中身が腐る前に、僕の弁当箱を回収しなくては。いつもの冷凍から揚げの匂いは分かるね? 探してこい!」
優美は職員室をウロウロする。息が詰まる。動けない。物音のひとつでも立てれば……死ぬ。
「バウウ?」
優美が猪俣に近づく。もう目の前。このままでは大きな声で鳴き始める!
「バ、バウ‼ むごっ!」
猪俣はとっさに思いついた物を、優美にくわえさせた。
「おい。どこにいるんだ……いいから優美、弁当箱は? なんだ、あったのか。よし、それじゃあ帰るぞ」
その時のすすり泣く音が、隆には聞こえただろうか。
「高田……高田……助けて」
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