5話 卒アルは熱いうちに打て
「これは、大問題でございます!」
「ええっ!」
その占い師の言葉に、隆は絶句した。不測の事態を避ける(望む)ことが、今日の使命なのだ……と、思って、昨晩は無理に筋トレをしてしまった。節々が痛い。エアコンを掴んで懸垂なんてするもんじゃないな。その痛みを我慢して、隆は占い師に迫った。
「今日、僕には何か大問題が起きる……いや、起こせるんですか?」
「あなた。いろいろ伺いたいのですが、そういう関係になって、大丈夫でございますの?」
ちょっとだけ占い師の方がマトモな様子。冷ややかな目が、なんとも小馬鹿にしている感じ。しかし、教師には知る義務がある。隆は気にしない。
「そ、それで僕はどうすれば!?」
「悔い改めればよいかと」
「……見捨てないでください。100点満点の結果が欲しいんです」
すると、やっぱりそこまでマトモじゃない占い師は、ニヤニヤしはじめた。こいつはカモだ。身なりはややボロボロではあるが、好きな女性に金を惜しまない覚悟が見える。ワタシはそれを助太刀する、いわば彼の味方なのだ。へへ。占い師はうまい汁を吸う料金プランを説明した。
「よいでしょう。そのテストの100点満点。1問ごとにプラス2千円で占って差し上げます」
「ええっ! わ、分かりました。とりあえず、4千円……」
「ご冗談を。赤点を免れるには、とりあえず8千円でございますヨ」
教員免許の試験も、運で赤点を免れたのだ……ウソ。運と実力だ……ウソ。運と実力とカンニングだ。仕方なく隆はお札を渡すと、占い師は眉間にシワを寄せた。
「こ、これは嫌な兆し! 闇雲に愛を語ると裏切られます。あと、口にしてはならない言葉は、ファスト・レモン・スダチ。むむむ、なんのことか。これより先は、さらにお金が……」
「大丈夫ですよ! 先生!」
坂野緑が割って入った。れもん・すだち……? どことなく爽やかな、彼女の服装のことか? ……違う! 隆はそれよりも大きな間違いを思い出した。僕は趣味がクラッシック鑑賞という、爽やかさがウリだった。爽やかであるべきは僕だ。
「坂野! どこから見ていたんだ!」
「えっと『これは嫌な兆し』ってとこから」
ふう、危ない。そんな彼女は、ちょっとお札が積み重なっているのに気が付いた。
「ここの占い、高いんですね。こんなにお金がかかるんだ。お札が1枚、2枚……3万6千円!?」
「では、お嬢さん。我が占いの料金システムを、ご紹介しましょう」
「うわああ。やめてください!」
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「いいか。これはあくまで課外授業だぞ」
「喫茶店で勉強することはあったけど、喫茶店で授業を受ける日がくるなんて!」
次の日曜日。約束通りデートが出来て、坂野は満足そうだ。だが、ふいに人混みを眺めて、悲しそうな瞳を見せた。今日の涙目は、少し意味合いが違う気がする。
「先生って、どこまで一途でいられる?」
「一途?」
「私ね、恋愛で失敗しちゃった事があるんだ」
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緑ちゃん、こんな僕の代わりに、素敵な男の子を見つけてね。
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「坂野が、世界で一番好きだよ。僕は生徒と付き合うことが出来た。教師になって本当によかった」
そんな思い出に浸っていると、隆がつぶやいていた。まあまあ、デカい声で。
隆くん、少しくらい学習したらどうか。隆くん、ちょい役なので、もう二度と出てこない占い師のいう事を多少は聞いたらどうか。
だが、勉強不足の隆に、坂野は今日も思わせぶりな態度を見せた。
「そんな、先生……世界で一番なんて言われたら、逆に信用を無くしちゃうよ」
DJミナコ 「ハイ! エブリワン! 隆の好きな、女子生徒ランキングだよっ! 第
一位は坂野緑! ……ん? 好きな女性ランキングではなく、女子生徒
ランキング? しかも、まだランキング形式なの? あ、ちょっと、ラ
ジオを切らないで!」
「先生、どんな番組やねん」
しかし、一応確認はしたので、坂野はとびきりのアイドルスマイルを見せた。ア、かわいい。好きな女性ランキングでも、上位に入りそう……
「高田先生、プリクラ撮ろ!」
坂野はそう言った。それに対し、隆は非常に教師らしい発言をした。
「お前、プリクラが何の略称か知っているのか? プリント俱楽部だぞ。テストに出るからな」
坂野は何も手を加えず、あえて普通の写真にした。その代わり頬を思い切り寄せた。
よかったあ。今日の朝、面倒くさいから歯なんて磨かなくてもいいかなーと思ったが、口臭ケアをしておいてよかった。この前、歯を磨くと言っておきながら、意識の低い隆。そんな彼に坂野は胸いっぱいの想いを語った。
「やっぱり偽りなく、誰なのか分かる写真が一番好き。細工なんてしたら、本当に先生か分からなくなって、二度と会えないような気がするんです」
「坂野……」
隆は胸キュンしたようだ。90年代の話で胸キュン? 言っておくが、胸キュンの歴史は君が思うより長い。
「先生。私、もう一度ラブレターを書くね」
そう言うと、坂野は茶封筒とノートの切れ端を取り出す。しかし、ちょっとヨレヨレ過ぎる。茶封筒の中でもお爺さん寄り。今日の隆の服といい勝負だ。
「おい。もうちょっと、見栄えのする手紙で頼むぜ」
「偽りなく手紙って分かる封筒の方がいいじゃん」
手紙を書くという割に、坂野はいろいろ聞いてくる。少し問い詰められているような……?
なんとなく、ここは何も言わない方がいい。隆は本能的に感じた。坂野の質問には答えてはならない。そうだ、自分に言い聞かせろ。
「今日のデートで見た映画は?」
ダメだ、隆! 嫌な予感がする! ……でも、いいか。彼女カワイイし。
「愛の逃避行の話だな」
「先生は、なぜ私を家に連れて行ったの?」
ダメだ、隆! 言及しない方がいい! でも、彼女にため息をつかせるのかい?
「プライバシーが守られるから」
「あと、坂野緑のキスの味は?」
これは一番避けるべき! だが、ウソは嫌いだ! 真っ直ぐなオレを見せつけろ!
「さすがファーストキス。まさしくレモンの味だった。でも、どちらかというとスダチかな」
……
「おい。なにが偽りなくだよ。結局キスはしてないぞ」
しかし、隆のツッコミなど、坂野は完全に無視。そして、分度器も照れるイジワルな角度で可愛く首を傾げた。
「最後に聞くけど、本当に私が世界で一番なんだよね?」
隆はためらわない。ゲームではバッドエンド。だが、現実はもう少しでハッピーエンド。後先考えないのが、愛の逃避行なのだ。だからボクは偉いのだ。これでいいのだ……もう一度言おう。隆はためらわない。
「お前のためなら、何を犠牲にしてもいい」
「ありがとう、うれしいっ! じゃあ、この手紙を……」
と言われて、隆はそれに手を伸ばす。しかし、さっと坂野はかわした。
「先生の家で読んでほしいの」
どうも、坂野はちゃっかり住所を書き留めていたらしい。郵便で送るようだ。そして「今日の思い出」と、プリクラで撮った写真を茶封筒に入れて、坂野はポストに投函した。
それは……事実上の辞職届だった……
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休み明けの月曜日。もう少し教師キャラを増やしていい気もするが、結局この二人で一週間はスタートした。
「小場と加山です」
「私たち、将来の夢は積乱雲とお饅頭」
「カ・ミ・ナ・リ……おこし」
そこへ、寝ぐせでボサボサの隆がやって来た。デート以外の日なら服装なんてどうでもいい。寝間着っぽいスーツ、いやスーツっぽい寝間着で、隆は職員室のドアを乱雑に開けた。
「おはようございます。相変わらずですね。あれ? なんですか、コレ?」
大量に置いてある、机の上の物に冷や汗を隠せない。無料で配ってます、と張り紙があるけど、冗談抜きで80個はある。なぜか、寝ぐせと身の毛がよだつ。小場と加山はとっておきのオバサンスマイルを見せた。
「とれたてピチピチのスダチです。どうしたんですか、高田先生? 顔がスダチより深緑ですよ。何かこの高校を『巣立ち』しなければならない事でも?」
「やめてください、加山さん。かんキツい冗談は」
かんキツい冗談の、次の瞬間。
「高田クン、ちょっといいかね?」
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ウエハラ校長があらわれた!
ウエハラ「やはり君は、坂野緑と何かあったようだね。説明してもらえるかな?」
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【どうする?】
しょうじきに話す
→イイワケをする
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タカシ 「えっ! いやいや、何もありません!」
ウエハラのこうげき! それなりに根拠がある発言をした!
ウエハラ「今朝、学校に連絡があってね。君と坂野の関係がいろいろと……本当に何
もないのかね?」
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【どうしよう?】
しょうじきに話す
→苦しいイイワケをする
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タカシ 「『噓つきは泥棒の始まり』こそ、座右の銘です!」
ウエハラ「とはいえ、本人の自首だからね」
タカシ 「え」
ウエハラはアイテムを使った!
ウエハラ「見たまえ。このお爺さん寄りの茶封筒。愛の逃避行の行く先が、自宅では
話にならんよ。一緒に撮ったプリクラの写真。画像を加工していないか
ら、君だとよく分かったぞ」
タカシは社会的にぜんめつした
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「うふふ、スダチって漢字で書くと酢橘ですよ、小場さん」
「では、高田先生に立場なしって立ち話をしましょうか、加山さん」
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「坂野、一体どういうコトだ! あの手紙、なんで校長の元にあるんだ!」
休み時間に隆は詰め寄るが、糠に釘とはこの事である。のれんに腕押し。馬耳東風。あとは「闇夜の錦」なんてのもある。
「そりゃあ宛先を学校にしましたから。当然、校長先生に届くでしょうね」
……
「おおタカシ、死んでしまうとはなにごとだ」
「先生、ちょっとゲームのやりすぎ」
作者はここまで書いて思う。どうやら、タカシに勇気はあるようだ。でも、勇者ではない気がする。
どうなるかは分からないが、いったん職業を【きょうし】に変えると、隆は少しだけ自分以外、つまり坂野の心配をした。
「だけどさ、あの校長に知られたら、坂野だって退学になるぞ」
すると、窓の手すりに坂野はもたれた。犯人の動機は、思ったより辛そうだった。これが、隆がバカでも、周りに冷やかされても、くっつく理由だった。
「退学になりたかったんです。優等生ごっこは、もう疲れたもん。友達におびえながら廊下を歩くのって、結構大変なんだから」
こういう生徒を助けたい。それが僕にとっての【きょうし】だったのに。どこで、あの気持ちは歪んだのかな……ところが、歪んでいたのは隆だけではなかった。坂野緑、完全犯罪大成功。
「先生、もう一度聞くけど、私が世界一なんでしょ? 二人で学校やめようよ! あのね、本当はビデオテープが出回ったって、構わなかったの。だけどあの時は、先生がただのスケベか分からなかったから『コロシ屋』に頼んで誤魔化してもらったんだ」
めでたし、めでたし。二人は末永く幸せに暮らしましたとさ。次回作にご期待ください……ところが、ぼうけんのしょには続きがあった。
「坂野。お前は今も生きている。そう、17歳まで、生きてきたんじゃないか」
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