優しい悪魔

@yoll

契約

 明るくて暗い。狭くて広い。高くて低い。つるつるしてざらざらで。

 そこはあり得ないものが同時に存在する不思議な場所だった。


 その場所で病衣の少女は大きな悪魔と向き合っていた。その瞳は生気が無く、虚ろだった。


「鳥は空を飛び自由を得るためにその腕を捧げた。では、人間たる君はもう一度自由に生きるために何を捧げる?」


 悪魔は少女に語りかける。


「私の口をあげる」


 少女はそう答えた。


 少女は後悔をしていた。


 その口から飛び出した言葉という凶器で傷つけてしまった、本当は大切な少年の事を思い出して。


 そんな大切な少年を傷つけてしまった言葉を吐き出した自分の<口>を、まだ幼く純粋な少女は許すことが出来なかった。

 今、正に死を迎えた少女の脳裏に浮かんだのは、もう一度大切な少年に謝りたいというたった一つの想いだけだった。


「宜しい。では、君のその<口>を頂こう。代わりに君は生きる。契約は交わされた」


 悪魔はそう言うと少女に向かって膝を折り、恭しく頭を垂れた。

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