塔から始まった日常の崩壊

レイ

第1話始まり

 塔――

 そう呼ばれる正体不明の建物が、ある日突然、世界各地に出現した。


 出現の前触れはなく、予兆もなかった。

 昨日まで更地だった場所や住宅があった場所に、気がつけば巨大な塔がそびえ立っていたのだ。


 混乱の中、一人の人気インフルエンサーが行動に出た。

 彼は、その塔の内部へと入り、生中継を開始した。


 配信は順調に見えた。

 だが、しばらくして――画面の奥から、異形の影が現れた。


 怪物だった。

 

 視聴者がざわめく中、彼は必死に逃げた。

 しかし次の瞬間、足を長い異形の手が掴み引き寄せる。

 悲鳴と共に映像が激しく揺れ、そして――画面は真っ黒になった。

 

 それきり配信は途絶えた。

 

 世間の反応は冷淡だった。

 「どうせやらせだろ」

 「再生数稼ぎに決まってる」

 そんな声が大半を占めていた。

 

 俺 天野 玲も最初はそう思った。

 

 だが、一つだけ引っかかることがあった。

 

 もし本当にやらせなら、なぜ政府は塔への立ち入りを厳しく規制している?

 なぜ、近づくだけで捕まる?

 疑問が、胸の奥で膨らんでいった。

 

 放課後、俺は衝動的に走り出していた。

 塔そのものには近づかない。

 法律に触れない、ぎりぎりの距離までだ。

 

 その時だった。

 

 ――足音。

 

 反射的に、俺は物陰に身を滑り込ませた。

 心臓の音が、やけにうるさい。

 

 ザッ、ザッ、と規則正しい足音が近づいてくる。

 逃げるべきか、それとも息を潜めるべきか。

 身体が言うことをきかない。

 

 そっと、ほんの一瞬だけ覗き見る。

 

 そこにいたのは――

 銃火器を構えた自衛隊員たちだった。

 

 複数人が隊列を組み、無言で塔の方角へ進んでいく。

 その表情に、訓練の余裕はなかった。

 

 俺は唾を飲み込み、息を殺す。

 

 (やらせ……じゃないのか?)

 

 背中に冷たい汗が流れる。


 (いや、まだだ。

まだ、塔に突入すると決まったわけじゃない……)


 そう自分に言い聞かせながらも、

 胸の奥では、はっきりと理解してしまっていた。


 ――これは、作り物じゃない。

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