第10話 止まった噴水と、止まらない疑念

 翌日、いよいよ春の交流パーティーが始まった。


 会場のグラウンドは色とりどりの飾り付けで彩られ、テーブルには美味しそうな料理やジュースが並んでいる。


 そして一番奥には、今日の目玉である『チョコレートファウンテン』が、甘い香りを漂わせて鎮座していた。


 三段重ねの塔の上から、滑らかなチョコがカーテンのように流れ落ちている。


(へぇ、あれが……)


 ママの話によると、温度管理と風量調節のバランスが難しい、結構高級な魔導具らしい。


「うわー! すごいね、アミーカ!」


「うん! 早くチョコつけたい!」


 私とアミーカは目を輝かせる。

 今日は思いっきり楽しみ尽くしてやる!


 ◇◆◇


 まずは念願のチョコレートファウンテン。

 マシュマロを串に刺し、チョコの滝にくぐらせる。


「ん〜! おいし〜い!」


「最高だね!」


 口いっぱいに広がる甘い幸せ。

 周りの生徒たちもみんな笑顔で、会場は楽しげな喧騒に包まれている。


 それから私たちは、料理を食べ歩いたり、ゲームコーナーを覗いたりと会場を練り歩いた。


 初等学校に入る前に遊んでた年齢違いの旧友と久しぶりに話したり、私とアミーカのそれぞれを紹介し合ったりもした。



 食べて遊んで話せて、最高の時間が過ぎていく中、会場の中心から、「ああっ!」という悲鳴のような声が上がった。


「止まっちゃった!?」


「えー、嘘でしょー!?」


 見ると、さっきまで動いていたチョコレートファウンテンの動きが停止し、チョコの流れが止まってしまっている。

 周りを取り囲んでいた生徒たちは大騒ぎだ。


「どうしたんだ!」


 遠くからゴードン先生たちが血相を変えて走ってくるのが見える。


 私はアミーカと顔を見合わせ、野次馬の隙間からファウンテンに近づいた。


(……ん? 魔石は問題ないけど、魔力が届いてない?)


 私はしゃがみ込んで、台座の裏側にある魔導回路の接合部分を覗き込んだ。

 案の定、運び込む時にぶつけでもしたのか、魔力を伝える回路に傷が入り、回路が断線しかけている。


「なんだ、これだけか」


 道具はいらない。傷の上から再度道を焼き付けて繋げばいいだけだ。


(とは言え、これは……)


 回路がだいぶ細い。

 私が出来る魔力操作の最善を出さないと焼き付けに失敗し、下手をすれば完全に壊れる。


 ……でも。

 ここで何もせずに立ち去る方が、よほど後味が悪い。


 私は指先に魔力を集め、出来る限り細く絞り込んでいく。回路の幅と重なった、その一瞬を逃さず、指先を一気に走らせた。


 ヴィン……。


 低い駆動音と共に、再びチョコが滑らかに流れ始めた。


「「おおーっ!!」」


 止まっていたチョコのカーテンが復活し、生徒たちから歓声が上がる。


「え、今セレナちゃんが直したの?」


「すげー! 一瞬だったぞ!」


「ありがとうセレナちゃん! まだ食べたかったんだ!」


 周りの子たちや上級生たちが、キラキラした目で私を見てくる。

 わ、なんか照れるな。


「こ、こら貴様ら! 今、機械に何をした!?」


 そこへ、遅れてゴードン先生たちが息を切らして到着した。先生たちは、私の手元ではなく、魔導具全体を警戒するように睨んでいる。

 どうやら、修理の瞬間は見ていなかったらしい。


「先生、何言ってるの? セレナちゃんが直してくれたんだよ?」


「そうだよ、壊れたのをパパッと直したんだ。すげーんだぜ!」


 口々に私を称賛する生徒たち。

 先生たちは、元気に動き続けるファウンテンと、賞賛されている私を交互に見て、あんぐりと口を開けた。


「な……直した……だと……?」


「破壊じゃなくて……修理……?」


 破壊って……先生たちは私たちにどういうイメージを持ってるのよ。


 ◇◆◇


 そんな騒ぎが落ち着いた後、ふと会場の隅に目をやると、一人で壁際に立ってジュースを飲んでいる女の子がいた。


 胸に青のリボンを付けているということは一年生の子だ。


 周りの賑やかさから一人だけ取り残されてしまっているようで、少し寂しそうに見える。


(大丈夫かな? 声、かけてみようかな……)


 私がそう思って、そっちに歩き出そうとした、その時。


「あ、いたいた! ティミナ、行こ!」


 別の一年生の女の子が、その子の手を取って、楽しそうに料理が並ぶテーブルの方へ駆け出して行った。

 ティミナと呼ばれたその子の顔が、パッと明るくなる。


(……なんだ、お友達いたんだ。よかった)


 私はホッとして、アミーカたちの輪に戻った。


 ◇◆◇


 楽しい時間はあっという間に過ぎ、パーティー終了のアナウンスが流れた。

 私たちは「楽しかったねー」と言い合いながら、出口へ向かう。


 すると、出口付近にゴードン先生とバルガス先生が立っていた。

 ……あれ?


「先生たち、なんか顔色悪くないですか?」


 朝見たときよりも頬がこけ、目の下にクマができている気がする。

 立っているのがやっと、という感じでフラフラだ。


「あ、ああ……そうだな。少し、気疲れしたよ……」


 ゴードン先生の声は枯れていた。

 準備が大変だったのかな?


「今日はとっても楽しかったです! 先生たちのおかげですね!」


「チョコレートも最高でした! ありがとうございました!」


 私とアミーカが満面の笑みでお礼を言うと、二人の先生は「ううっ……」と呻いて、ガックリと項垂れてしまった。


「じゃあ先生、さようならー!」


 私たちは元気に手を振ってその場を去った。

 背中越しに、先生たちの深いため息が聞こえた気がしたけれど、私たちは手をつないでスキップしながら家路についた。





―――――――――――――――――

チョコ噴水を一瞬で修理!

でも先生たちには破壊工作と勘違いされてしまうとは、日頃の行いは大切ですね(笑)


次回、第11話「プロの背中と、届かない帽子」

特別な贈り物作りに挑戦!

けど、パパの真剣指導で薬剤作りに大苦戦……


ここで修理しちゃうセレナ、

目立ちすぎだと思いました?

それともスカッとしました?

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