スキルは無いと言われたので土下座をしてみました

宝門しみず

序章 転生準備

第1話 土下座は効果があった

 小林 真司30歳 サリーマン 独身・家族なし・今病院で静かに息を引き取った。


 急性の血液の癌ということで入院して1か月、病院での治療で俺の寿命が延びる事は無かった。 


 走馬灯のように自分の人生が流れる事もなく、人生を振り返る訳でもなく、俺はただ受け入れるだけだ。

 俺の人生は全てを受け入れるだけの人生だった。


 自らの思いを誰かに伝える訳でもなく、自分の夢をかなえるために努力もしなかった。

 そもそも夢を持っていなかったかな、いやラノベを呼んだ時に俺もこんな風にと

考えた事があったな。


 もし生まれ変わったら、綺麗で性格の良い嫁さんをもらい、子供を授かり、仕事でもどんどん出世して、周りから頼られ尊敬されるような人生を送ってみたいな。

 なんて、思ってみたりして。


 病室でベットに横たわる俺は顔に白い布を掛けられていて、その姿を病室の天井付近で眺めていた。

 

 突然、俺の体(霊体)が上から吸い上げられるようにどんどん上昇していく、俺は必死に下に戻ろうとするが更に強い力が掛かり上昇スピードはどんどん加速していく。


 辺りを見回すと地球が足元に見えた。

 月が横に見えたと思ったら更に加速し、目には光の線しか見えなくなって意識がなくなった。


 「真司.....小林 真司起きなさい」

 頭の中に大きな声が響く。

 目を開けると真っ青な空間に人型の白いもやが見える。


「お前はこれから違う星に転生する。地球と同じような星で空気があり、3つの大陸に山や川があり、人間がおり、魔人が住み、魔力があり、魔法があり、野生動物がが駆け、魔物も住む」


「お前の記憶するラノベに出てくる異世界とよく似た星だ。では、転生させるぞいいか?」


 「えっ ちょっと待った∼」

意識が戻った瞬間に嵐のように消化出来ない情報が流れてきた。


 異世界には行きたいような気がするが、いや間違いなく行ってみたい。


 でも魔人に魔物? 俺は周りにすぐ流されてしまう意志と脆弱で締りのない肉体、更には頭の出来も良くない。

 異世界でもきっと地球にいた時のような地味な人生を送りそうだし、ましてや魔物にすぐ殺されてしまうかもしれない。


 「転生はありがたくお受けいたします。それでチートスキルは特典は何を頂けるのでしょうか?」


 「スキルは自分で努力して身に付けるものじゃ、地球でもそうであったろう、転生の特典も特には無い」


 「それじゃあどうやって異世界で生きていくのですか?異世界に転生してもこのままダメ人間のままじゃ生きていく自信がありません」


 異世界へスキルなしで行くなんてラノベには書いて無かったぞこれはまずい。


「俺は地球で過ごした30年何もいい事がありませんでした。彼女もいませんでした。女性とお付き合いした事もありません。

 友達と呼べる人もおりませんでした。親兄弟の記憶もなく孤児でした。勉強も苦手で運動なんて壊滅的に音痴でした。

 仕事でも一度として認められ褒められた事がありません。

 俺には生きて行く力が何もありません。どうかチートスキルと転生特典をください。よろしくお願いします。」


 俺は白い靄に土下座をして何度も何度も頭を下げる。

 

 「何度お願いされても無理なものは無理だ。私に出来る事は魂を世界に送る事だけだ」


 俺は土下座をしながらお願いしますを繰り返した。

 どれ位時間が過ぎたかわからないが白い靄が動いた。


 「人間を超越したものが住む場所が有る、そこに一度行ってみるかい?

 これは特別な事で今まで例がない事だが、シンジが本来行く世界の前にもう一つ世界を経験させてあげるから、その世界で修行に励み何か力を身に付けるんだな」

 

 俺はどんな修行か白い靄に聞こうとした瞬間意識が切れた。......

 

 気が付くと俺は地面に横になっていて、俺の身体は30歳のシンジのままで生きてる感覚がある。


 目の前には山伏姿の爺さんがしゃがんで俺をみている。

「お主がシンジか儂はオズノじゃでは早速修行を始めるぞ」


「ええ~~、いくら何でも早すぎませんか」

 いきなりの修行開始に驚いていると、


「シンジはここに何をしに来たのじゃ?」

「スキルを貰いに、強くなりにきました」

「だから修行・鍛錬ではないか」


「確かにそうですけど、少しくらい何か説明が欲しいです。強化方針とか期間とか」

「いつまでにどう強く成るかは全てシンジ次第じゃ」


 オズノ様はまず俺に毎日山を走って来いと言う。

 確かに頂を白くした綺麗な山並みが見えるが何処をどう走ればいいのか全く分からない。


 まもなくオズノ様が子供を二人連れて来た、二人とも5歳ほどの男の子と女の子で身長も俺の腰位までしかない。只、男の子は1本、女の子は2本、頭に小さな角がある。


「真司、道案内はこの子たちがする。帰って来たら飯にするからさっさと行ってこい」


 早速小鬼たちについて走り始める、結構な速さだがなんとかついて行ける。

 山道になっても前を走る小鬼たちのスピードは落ちない、俺の呼吸はかなり早くなってきたが、修行鍛錬と考えてなんとかギリギリ小鬼達について行く。


 目の前に勾配のきつい斜面が現れた。日本の登山だと斜面がきついとロープとか梯子が有るがここには何もない。


 小鬼達は石や小さな岩を足場にしてピョンピョンと軽やかにジャンプして登っていくが、俺は両手両足を使い登っていく。


 やっとの思いで登りきると小鬼達が見えないので、叫ぶと戻って来てくれた。

もう限界、俺の身体は悲鳴をあげている。

 それでもこれが修行だと思いなんとか、よろめきながらも進んでいく。


 目の前に現れたのはほぼ垂直な崖だ、登山家が岩になんか打ち付けてやっと登って行くような高さが300ⅿは有りそうな崖だ。


 小鬼達は平地を駆けるような速さで登っていく。これ、絶対無理だろうと思った瞬間に目の前が暗くなり意識を失った。


「いつ迄休んでおるんじゃ起きんか!!」


オズノ様の大きな声で目を開けると粗末な小屋の中で横になっていた。どうやって帰って来たか聞くと、小鬼の男の子が俺を担いで来てくれたそうだ。


 あの小さな体で俺を担いで帰って来てくれた事に驚いていると


「シンジお主が今日倒れた場所は道程の2割も届かんところじゃ、本来で有れば朝食前の鍛錬として毎日するものだが、今日は特別に完走出来なかったお主にも飯をやろう」


 そう言って出された椀には煮豆が入っていた。

 味付けは塩だけだろう美味しくないが俺の身体がその煮豆を欲しているようで箸が止まらない。

 俺の中ではあっという間の朝めしだったが既に昼を過ぎて夕方が近かった。


 煮豆の朝食を食べ終わると、小鬼二人が俺を迎えに来てくれて鍛錬を始めるという。


「今日は俺を担いで帰ってくれてありがとう。俺はシンジ、君達の名前は?」

「私達に名前は無いよ」女の子がいう。


「それじゃ俺が付けてやるよ、君は青いからセイ、あなたは薄い赤だからモモね」


 俺は男の子にセイ、女の子にモモと名前を付けた次の瞬間、身体の内側から何かが出て行くのを感じて又意識を無くした。



 気が付くとオズノ様が隣に座っていて既に俺が倒れてから新しい朝を迎えていた。


「儂がうっかりしておった。すまんかったのうシンジ。

危うくお主を消滅させるところだった。 ここ仙人界では名前を付ける者が自分の魂を削って相手に名前を贈るんじゃ。

 シンジがセイとモモに名前を与えた事で、魂力の少ないお主は魂自体が消滅しかけたのじゃ、仕方がないから儂の魂力をシンジに分けた」


 そんな名前を付ける事がそんな大事おおごとなんて知らなかったし、ペット感覚で名前を付けてしまった二人にはあとでに謝ろう。


 翌日日の出前、空の色が変わり始めたので朝の鍛錬を始める。

 セイとモモに俺が名前を付けてしまって申し訳無かったと謝ると


父様とうさま私もセイもとても嬉しかったので謝らないでください」

「ガゥゴゥ」セイはうまく話せないようだが魂力を分けたせいか何を言いたいか良くわかる。


「喜んでもらえてるなら良かったよ、それと父様とうさまだと堅苦しいので俺の事はシンジと呼んでくれ」

「わかりましたシンジ」 「ゴァ」


「親子にはなれないが、セイとモモは俺の兄弟みたいなもんだからよろしく頼むよ」

「うん」

「ガウ」


 朝の鍛錬、昨日と同じように走り始めたが不思議な事にセイとモモに付いて行ける。

 昨日気を失った断崖も二人の真似をしながら登っていけるし、これはオズノ様に魂力を分けて貰ったからか、昨日とは比べ物にならない程に身体が動く。


 その後も順調に鍛錬の道程をこなし地面が雪で覆われている場所まで来たとき、俺の身体はピクリと1ミリも動かなくなった。

 オズノ様から魂力を分けて貰ったせいか気持ちは元気だが、身体が限界を超えたようだ。


「ガゴゥガ」

「セイが俺を担ぐって、有難う。悪いけど頼むよセイ」

「ゴァ」


 どうやら昨日と違って中間地点迄は来れてたようだ。俺はセイに天秤棒のように担がれて山を下って行くが早い、セイが早すぎる。


 道路を走る車のようなスピードでセイは俺を担いで山を下っていく。

目の前に崖が現れたがセイのスピーどは落ちない、というより俺達は崖から落ちた。


 意識が飛びそうな空中で落下しながら気が付いた事が、セイはこの落下をコントロールしているという事だ。


 大きな岩を足場に遥か下に見える岩に飛び降りていく。横を見るとモモがセイとは違う岩を足場にして華麗に降りていく。

 途中で何度も気絶しそうになりながらもセイに担がれた俺は小屋迄たどり着いた。


 朝食を食べる、昨日と同じ煮豆だ美味しくないが不味くもない。ただ食べたら疲れていた体に力が湧いて来る不思議な朝食を終えた。

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