第5章:期末テスト前夜
夜の静寂が部屋を包む。机の上には教科書、ノート、参考書が積まれ、ペンの走る音だけが響いている。高橋遼は、期末テスト前夜の緊張感に包まれながらも、今日も図書室で勉強している美咲のことを思い浮かべる。
「明日のテスト、大丈夫かな…」
小さな声で自分に問いかける遼。心臓が少し早く打つ。数学、英語、国語…覚えることは山ほどあるが、それ以上に、隣で一緒に勉強してくれる美咲の存在が彼に勇気を与えていた。
図書室の扉を開けると、美咲はすでにノートを広げ、ペンを走らせていた。夕陽の名残が窓から差し込み、彼女の髪を柔らかく照らす。遼は静かに席に座り、ノートを開く。心の中は少しそわそわする。今日は、昨日までの自分よりも、もう少し勇気を出す日なのだ。
「遼くん、この問題、どうやって解くんだっけ?」
美咲の声が、夕暮れの図書室に柔らかく響く。遼はペンを握りながら、説明する。
「こう考えると分かりやすいよ。まずここをこうして…」
手元のノートに例題を書きながら、遼はふと心の中で決める。
『このノートに、ちょっとだけ…僕の気持ちを書いて渡そう』
ページの端に小さく、しかし確かに文字を置く。その文字は、読む人にだけ意味が伝わるように、そっと書かれたメッセージ。
「一緒に頑張ろう」
手が少し震えるのを感じながらも、遼はノートを閉じ、自然に美咲に差し出す。心臓が跳ねる。美咲は一瞬目を止め、ノートの端をそっと開く。
「……え?」
小さな声が漏れる。美咲の目が一瞬大きく見開かれ、次第に柔らかい笑顔に変わる。頬が少し赤く染まるのを、遼は見逃さなかった。
「遼くん…これ、ありがとう」
美咲の声には、感謝と少しの照れ、そして心からの喜びが混ざっている。遼の胸の中に、温かい光が広がる。
「う、うん…こちらこそ」
緊張で少し言葉が詰まるが、自然と微笑みがこぼれる。視線を交わすだけで、二人の心が通じ合っていることを感じる瞬間だった。
勉強を再開するも、互いの視線や手元の動きがいつも以上に意識される。ペンを握る手、ページをめくる指先、微かな呼吸、時折交わされる小さな笑み――すべてが、静かな図書室に優しいリズムを生む。
「遼くん、次の問題も一緒にやろうか」
美咲の声に、遼は小さくうなずく。胸の奥に湧き上がる温かさを感じながら、今日の小さな勇気が、二人の距離をぐっと近づけたことを実感する。
外の空は夜の帳に包まれ、図書室の静けさが増していく。だが、二人の心の中には、温かく確かな光が灯っていた。勉強の合間に交わした一瞬一瞬の笑顔、視線、心の交流――それが、互いを支える小さな勇気となったのだ。
帰り道、校庭の影が長く伸びる中、二人は並んで歩く。言葉は少なくても、互いの存在を確かめ合う温かい時間。遼は心の中でそっとつぶやく。
「これからも…ずっと、一緒に頑張ろう」
その決意が、二人の青春の物語に、また新しい一歩を刻んだ。
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