がらくた
がらくたを押し入れの中にしまった。
壊れた目覚まし時計。
片方だけのイヤリング。
もう使わないマグカップ。
色あせたスカーフ。
どれも、今の私には必要のないものだった。
けれど、捨てることはできなかった。
それらを手に取るたび、私は少しだけ過去に引き戻される。
あの部屋の匂い。
あの時の気持ち。
もう戻れない過去。
押し入れの奥に、それらを積み重ねていく。
見えないように。
聞こえないように。
思い出さないように。
けれど、夜になると、押し入れの中からかすかな気配がする。
誰かがそっと、私の名前を呼んでいるような。
あるいは、私自身が、しまい込んだものたちに呼び戻されているのかもしれない。
がらくたは、まだ“思い出”ではない。
それは、ただの残骸だ。
でも、いつか。
それらが私の中で形を変え、やさしい記憶になる日が来るのだろうか。
私は、押し入れの前に座り、そっと扉を撫でる。
開けることはしない。
まだ、その準備ができていない。
でも、いつか。
いつか、私はその扉を開けるだろう。
埃を払い、ひとつずつ手に取って、それらに名前をつけ直すだろう。
そのとき、ようやく私は、
がらくたを「思い出」と呼べるのかもしれない。
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