第67話 【絶望】ミレット、気づく

 私は、ギルドへ仕事へ行く道中、信じられない話を聞いた。



「知ってる? アイゼン、死んだんだって」「聞いたわ。なんでも、予備調査員として洞窟へ行ったんでしょ」「そして、死んだ。ミレットさえ、休まなければ……」



 え、アイゼンが死んだ? あの、頑丈で死にそうになかったアイゼンが。



 手に持っていたカバンが手から落ちる。カランと音を立てて筆記用具があたりに散らばる。赤色のペンがアイゼンの血の色のようにしか見えない。



 もしかして、あの案山子の服は本当にアイゼンのものだったの? それに、原因は私が休んだこと。私さえ、私さえ、私さえ――。



 ふいに、肩に手が置かれる。



「きゃっ!」



「おい、どうした?」



 振り向くと、そこにいたのはヘイゴンさんだった。作業服の所々に赤い血がついている。



「ヘイゴンさん、怪我ですか!? 早く血を止めなきゃ」



 ズボンから慌ててハンカチを取り出すが、ヘイゴンさんに制止された。



「ああ、これか。これは羊の血だよ。収穫祭の準備で、一頭バラしたんだ」



 ヘイゴンはそう言って笑ったが、その歯の隙間には、アイゼンが着ていた赤と黒の縞模様の糸が挟まっていた気がした。



【ミレットの私記】

ギルドに着いたけれど、みんなの視線が痛い。「人殺し」と言われているような気がする。

机に置かれた赤インクの瓶が、どうしてもアイゼンの……。

その時、ギルド長が私の手を取った。彼の指先は冷たく、そして少しだけ「粘り気」があった。

「ミレット、気にするな。君は悪くない。アイゼンは今、村の礎として生きているんだ」

彼は、笑いながら私の頬を撫でた。



【研究員のメモ】

私の腕が、いつの間にか青い。アザではない。皮膚の下を、青い川が流れている。キーボードを叩く指から、ポタポタと赤い液体が滴り落ちる。

「先生、ペンキをこぼしましたね」と学生が笑う。違う。これはペンキじゃない。私の指先が、アイゼンの糸を紡ぎ出しているんだ。

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