第17話. 黒き蠅の戦士 プレッソ&バスティ

分厚い装甲として機能する外殻、その巨体は地を蹴ると同時に身体を丸め回転させ、スターユへ目掛けて圧倒的な重量を猛烈な勢いで繰り出した。同族からプレッソと呼称されるその個体は、立ちはだかる人間の兵士達をその重量を以てまとめて轢き圧殺することを得意としていた。


「ヒョロヒョロで見るからに軽そうな人間だなァ〜オイ!?」


「“挽き”殺す!!!」


数々の兵士を圧殺してきた突進が確かに命中する衝撃音が響き渡る。


しかし、違和感──


(なんだ…?)

プレッソは、これまで彼が轢いてきたものとは異なる感覚を覚えていた。

「す、進まねェ!?」


回転はすれどもその身は進まず停止している。空回りする身体──


プレッソの行手を阻むのはスターユが所持する大剣“オフィーリア”だった。

碧く静かに煌めく大剣は、アリシアの成長した“揺るぎない意思”の力を帯び、攻撃を防ぐ性能が底上げされ、圧殺するはずだったプレッソの突進を“弾いた”。


(物理的な攻撃にも対応できる…コレなら俺にも)


(プレッソの突進を受け止めたじゃと!!?人間にあんな芸当が出来るのか!?)

「おいツェグロース!!こんな力を持った人間がいるなんて聞いてねえぞ!」

「手を緩めるなプレッソ!同時にヤツを殺れ!!」


プレッソは回転を止めると大型のスレッジハンマーの様な腕を振り翳し、スターユのガード諸共崩すべく、強引に叩き込もうとする。

その傍では、全身を奪い取った装備を身に包んだ虫、バスティが確実に止めを刺すべく大剣を片手で構えていた。


(アレは流石に防御不能じゃろう。グチャグチャ、じゃな)


カァァァン──


プレッソの重い腕が叩き込まれた筈のその瞬間。

城の入り口に響き渡るのは重量が叩き壊すそれではなく、甲高い金属により弾き飛ばす音──そして勢いあまり体勢を崩すプレッソの姿があった。

スターユはその腕から繰り出されるエネルギーを受け止めることはせず、柄にあたる部分を側面からさばき、その重量の行き先を弾き逸らした。


(なるほど、これは使える…!)


ガラ空きになった巨体、あとはスターユが好きな技を叩き込むだけだった。


プレッソにも敵を屠るための勝ち筋があれば、スターユにも勝ち筋が存在する。彼の大剣からは似つかわない繊細な剣技を用いて相手を無力化した後、その場で戦闘を終わらせる必殺の技を決まって繰り出す。


“フルムーン・アズール”──


盾や重装甲もろとも水平に一切のぶれなく正確に薙ぎ払い、切断する斬撃。力を刃先に集中させる性質上、通常の剣では強度が耐えきれず破損してしまうところが、原型を変えない静かなる大剣“オフィーリア”がこれを可能にさせていた。


そして、現在、その大剣にはアリシアの意思の力が乗っている。

元来持つ切断の力は“弾き飛ばす力”へと変換され、プレッソへと叩き込まれた。


「グホッ…!!!」


その巨体は強烈な勢いで弾き飛ばされ、傍で援護すべく構えていたバスティに命中した後、奥の広間へと吹き飛び、その経路上にいたツェグロースをほんのわずかに掠めた後、大きな支柱へと激突した。


(ひぃ……潰されるところじゃった…!)


「あなた、なにいまの!?あんな重い攻撃を捌くなんて」

「咄嗟に思いついたのですが…アリシア様のお力がなければ危ないところでした。そしてどうやら、物理攻撃にも効力を発揮できている様ですね」

(うーん、スターユのやつ、早速私より能力使いこなしてない…?嬉しい様な、ちょっと悔しいような…)


「おい」


自分の能力を使ったスターユの機転にほんの少しばかり嫉妬の表情を浮かべるアリシアに、体勢を立て直したバスティが接近してきた。


「お前、小さいな。それで俺に攻撃が届くのか?」


「…」


「普通は人間の女には手を出さねえんだけど、命令だから仕方ねえよな?じゃあな!」

バスティは勢いよく腕を掲げ、大楯を殴りつける。


”シールドバッシュ“──


「は〜〜。今度は私にも良いところ頂戴よ」


"揺ぎ無き金ダイヤモンド剛石の方陣ファランクス !!!"


アリシアは跳躍すると“揺るぎなき意思”の力で衝撃を吸収しつつバスティが殴りつけた大楯の上に、とん、と着地した。次の瞬間、バスティは顔面を地面に着ける勢いで大きく首を垂れる。

「…っ!!?」

アリシアは大楯を踏み台にすることで更に跳躍すると、バスティの脳天に踵落としを直撃させていた。


“クレセント・スバルツォ”──


その直後、スターユの大剣の剣先が地面スレスレまで振り下ろされた後、アッパーカットの様に一気に叩き上げられた。

巨体が弾き上げられ、宙を舞う間、アリシアは狙いを定めつつ拳を構える。


(蓄積した意志を一撃に集中させる!)

「せーのっ!」

落下してきたバスティにアリシアの溜めが乗った一撃が炸裂する。彼女の身長をゆうに超えるその虫は吹き飛び、支柱へと激突していたプレッソへと重なるように命中した。


揺ぎ無き金剛石の流星ダイヤモンド・メテオ"──


吹き飛ばされ激突、重なる二匹の虫を目掛け、アリシアは床を蹴り弾き、高速で身を繰り出す。

そして、力強く握り込んだ拳を重なる二匹にまとめて叩き込んだ。

アリシアの追撃により衝撃はプレッソ&バスティを通して支柱に伝わり、地響きの如く重く鈍い轟音と共に城へと衝撃が響く。


二匹の虫は完全に沈黙した──


(馬鹿な…プレッソ&バスティが…)


アリシアはツェグロースを一瞥する。


彼はビクッと身体を跳ねると、その羽根を使って飛行し、目にも止まらぬ速さで逃走していった。


「相変わらず、逃げ足だけはとんでもなく素早いわね」


逃走しながら、ツェグロースは思案する──

(くそっ完全に読み違えた!)


(落ち着いて考えろ!冷静に、あの小娘と剣士の弱点を見極めるのじゃ…!)


自慢の逃げ足に追いかけてくる様子はない。彼はもう一度二人の戦闘の様子を思い返す。

(あの女……そうじゃ、見たところかなりあの剣士に精神的に依存している!)


(聞いていた話と違う戦闘力を身につけているのは、恐らくそれが原因…!そしてそこが弱点でもあるのは、まず間違いないじゃろうて)


(人間の弱点…脆さを突けば、うまくやればあの人間の心を折ってやれる!)


(そうじゃ…どの道この国は滅びる…!そして、奴が"腕が立つ"ならば…!)

ツェグロースの飛行は、敗北を認める逃走ではなく、復讐と反撃のためのものへと変わっていた。


[AI非使用]

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