鉄屑世界の修理屋

天然ソーダ水

帝都脱出編

第01話『雨の日の依頼人、数式』

前書き失礼します。

この作品は自己消費用にAIに書いてもらった作品を細かい部分を修正して投稿したものになります。ご注意ください。


――――――――――――――――――――


 帝都ロンディニウムの空は、今日も今日とて腐った羊毛のような灰色に覆われていた。 降りしきる雨は、工場の煙突から吐き出されるすすをたっぷりと吸い込み、黒い涙となって石畳を濡らしている。


 イーストエンド、貧民街の一角。ガス灯の明かりさえ届かない路地裏に、風雨に晒され文字が掠れかけた小さな看板を掲げる店がある。


『からくり堂(Clockwork Works)』。

 それが、俺――九十九 蓮(ツクモ・レン)がこの薄汚れた世界で守っている城の名前だ。


「……また雨か。これじゃあ、客足も遠のくわけだ」


 俺は作業用のルーペを目から外し、小さく溜息をついた。

 手元の修理品――近所の娼館の女が持ち込んだピンヒール――は、既に直し終えている。

 俺は胸ポケットから、真鍮のパイプと時計の歯車を組み合わせて自作したオイルライターを取り出した。


 親指で歯車を弾く。


 ガキンッ。


 硬質な金属音と共に、頼りないオレンジ色の火が灯る。質の悪い機械油が焼ける匂いが、雨の湿気と混ざり合う。

 紫煙を深く吸い込み、俺は腰のベルトから携帯灰皿を取り出して、丁寧に灰を落とした。

 スラムの住人が見れば「吸殻なんて床に捨てろ」と笑うだろうが、前の世界で染み付いた習慣というのは、そう簡単には抜けない。


 カラン、コロン。


 ドアに取り付けた真鍮のベルが、場違いなほど軽やかな音を立てた。


「……いらっしゃい。生憎だが、傘の修理は受け付けてないぞ」


 顔も上げずに言う。どうせ、雨宿りの酔っ払いか、集金に来たチンピラだろう。

だが、返事はなかった。代わりに聞こえたのは、濡れた衣服が擦れる音と、荒い呼吸音。


「……直して」


 鈴を転がすような、しかし切羽詰まった女の声。俺はゆっくりと顔を上げた。


 そこに立っていたのは、この貧民街には似つかわしくない上等なベルベットのドレスを纏った女だった。泥と油で汚れ、高そうなボンネット(帽子)からは雨水が滴り落ちている。

 彼女は背後を確認するように何度も振り返りながら、カウンターに駆け寄ってきた。


「これを……この子を、直してほしいの!」


 彼女が震える手でカウンターに置いたもの。

 それは、黄金で作られた卵型の『オルゴール』だった。表面には精緻な彫刻が施され、貴族の愛玩品に見える。

 だが、俺の職人としての勘が告げている。――これは、ただの機械じゃない。


「……アンタ、こいつをどこで拾った?」

「拾ってない! これは私の……」


 俺はルーペを装着し、オルゴールに手を触れた。

 温かい。金属の冷たさではない。まるで生き物のような、生々しい熱を帯びている。

 俺は意識を集中させ、自身のユニークスキル【至高の鍛冶Supreme Smithing】を発動した。


(――解析Analyze


 視界に不可視の情報が展開される。

 対象の構造、材質、製造工程が、設計図となって脳内に雪崩れ込んでくる。


『構造:自律駆動型魔導術式』

『材質:真鍮、クリスタル、そして――人骨』


 俺は息を飲んだ。歯車が見える。だが、それは金属ではない。

 微細な骨を削り出して作られた歯車が、血管のような赤い管で繋がれ、複雑怪奇な噛み合わせを構成している。


(……なんてこった。こいつは機械じゃない。『呪い』だ)


 これは『数理魔導アリスマンシー』だ。

 それも、帝都の法で禁じられている黒魔術の類。俺のスキルは、構造を理解し、手持ちの材料で『再現』することで修理を行う。

 だが、このオルゴールの心臓部は、俺には理解できない狂った数式で動いている。


「悪いが、俺の手には負えない」


 突き放すように言って、俺はオルゴールを押し戻そうとした。

 女が俺の手首を掴む。氷のような冷たさと、万力のような力強さ。


「お願い! お金ならあるの。いくらでも払うわ。だから……!」

「金の問題じゃない。俺は機械屋だ。魔術の理屈は分からん」

「中の『歌』が止まってしまったの。このままじゃ、この子は死んでしまう……!」


 女が絶望に崩れ落ちそうになった、その時だ。


『――ほう? 興味深い』


 俺の脳内で、冷徹で、それでいて粘着質な男の声が響いた。

 俺ではない、もう一つの人格。かつてのゲームキャラとしての俺、No.2『オウル』だ。


『よく見たまえ、レン君。その歯車の素材、ただの骨ではないぞ。「飛竜ワイバーンの喉仏」の化石だ。それを「双子素数」の配列で研磨して音階を作っている』

(……おい、黙ってろ。また頭痛がする)


 俺の拒絶を無視し、オウルは知的好奇心に涎を垂らして騒ぎ立てる。


『愚問だね。数式が少し絡まっているだけだ。私が「添削」してやれば、すぐに歌い出すさ』


 俺は溜息をつき、携帯灰皿の蓋を閉めた。 厄介ごとの予感しかしない。だが、目の前で泣きそうな女を見捨てるのも、亡き親方の遺言に反する。

 ――『技術は裏切らないが、人は裏切る。だが、情は忘れるな』。


「……チッ。分かったよ」


 俺はカウンターの下から【修理中】の札を取り出し、表のドアに掛けた。


「俺には無理だが、ウチの『専門家』なら直せるかもしれない」

「え……?」

「ただし条件がある。俺が奥の部屋に行っている間、決して覗くな。音も立てるな。……いいな?」


 女がコクコクと頷くのを確認し、俺はオルゴールを回収して、店の奥にある重厚な鉄扉を開けた。


 中は狭い倉庫兼、俺の更衣室だ。

 鉄扉を閉め、鍵を掛ける。薄暗い部屋の中で、俺はオルゴールを作業台に置き、深く息を吐き出した。


「……頼むぞ、オウル。店を爆発させるなよ」


 俺は目を閉じ、意識を脳内の深層へと潜らせる。 そこには、回転式の『思考スロット』が浮かんでいる。 俺は脳裏に、一つの『人格媒体カートリッジ』を強くイメージした。

 真鍮のフレームに、青い水晶が埋め込まれたカセット。刻印は【No.3】。


(――装填ロード


 カシャン!!


 脳内で接続音が響く。

 世界が歪む。俺の体から青い光の粒子が噴き出し、現実の肉体を上書きしていく。

 薄汚れた作業着が消え、漆黒のローブと、異様なペストマスクが形成される。


 変身完了。

 鏡に映るのは、もはや修理屋の青年ではない。帝都の影に潜む怪人、組織『ブルーバード』の頭脳。


「……ふむ」


 ペストマスクの奥で、青い瞳が怪しく輝いた。

 オウルとなった俺は、作業台のオルゴールを見下ろし、恍惚とした声を漏らす。


「美しい……! 完全に狂っている。動力源は『子供の魂』か。それを三次元的なユークリッド幾何学で封じ込めるとは、実にもったいない!」


 オウルは指先を空中に走らせた。

 青白い光の軌跡が、空中に数式を書き殴っていく。 チョークもペンもいらない。私の指が、世界の記述コードを書き換えるペンだ。


「ここが違う。変数が一つ足りないな。……収束しろ、愚かな数式ども!」


 ガリガリと音を立てるような勢いで、私はオルゴールの術式に干渉していく。

 解析率、80%。修理完了まであと数秒。


 その時だった。


 ドォォォォォン!!


 表の店の方から、爆音が響いた。誰かがドアを蹴破った音だ。


「――っ!?」


 オウルの集中が途切れる。

 壁の向こうから、野太い怒号と、女の悲鳴が聞こえてきた。

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