第三話「魔王はギルドに入れるか?」

ギルド。


それは冒険者が集い、仕事を請け、名声と金、そして時には命をやり取りする場所。




その建物の前に立ち、我は腕を組んだ。


正確には――






腕を組んだつもりで、足をわちゃわちゃさせていた。




『……思っていたより、でかいな』




「そりゃそうでしょ。街で一番大きい建物だし」




マーシャが呆れた声で言う。




「ここで冒険者登録するんだよな!」




ジークはやけに楽しそうだ。




『フン。冒険者など、我が名乗る必要はない存在だが……』




「はいはい、黙って行くわよ」




マーシャに小突かれ、我はそのままギルド内へと運ばれた。




中は騒がしかった。


酒の匂い、汗、血。




そして――強者の気配。




『……ほう』




思わず、周囲を見回す。




筋骨隆々の戦士。


魔力を纏った魔術師。


鋭い目をした弓使い。


獣人やエルフ、ドワーフなど多くの種族が集っている。




だが――




『……妙だ』




「何が?」




『視線を感じる』




「気のせいじゃない?」




いや、違う。


敵意でも好奇心でもない。


もっと静かで、もっと深い――




“見定める”視線。




『…………』




受付にたどり着き、登録手続きが始まる。




「冒険者の登録希望の方ですね」




「はい!」




「えっと……」




受付嬢の視線が、我で止まる。




「……こちらの方は……」




『ダイオウだ。冒険者として登録しに来た』




「喋った!?」




「念話よ」




「念話!?…ま、まぁ…知性があり、意思疎通ができ、依頼を遂行可能であれば登録可能です…。 」




規約上問題はないらしい。




「えっと……種族は?」




『ダイオウグソクムシだ。』




「ダイ…?…見た目的に…“甲殻魔獣(知性あり)”で…すかね…?」




この見た目では我は魔獣扱いらしい。




『…ム…納得はいかんが、よかろう』




「それでは、皆さんのランクは――」




紙に判が押される。




「Fランクです」




『……F…だと…?』




「実績ゼロですから。登録したてはみんなFからです。」




受付嬢は淡々と説明をする。




冒険者にはランクがある。上から順にS、A、B、C、D、E、F。




FランクからDランクまでは登録したての者などの初心者、


Cランクは中堅冒険者、


Bランクはベテラン冒険者、


Aランクにもなるとトップクラスの戦力となる。


そして、Sランクは規格外。


パーティにいるのといないのでは天地ほどの差があるらしい。




登録を終え、掲示板の前に立つ。




「Fランクはこの辺ね」




マーシャが指差す。




薬草採取。


荷運び。


害獣駆除。




『…手応えのない依頼ばかりだな。』




我の言葉にジークが笑う。




「最初はみんなここからだ!」




『……フン』




その時。




――ぞくり。




背中に、冷たい感覚が走った。




『……まただ』




「何?」




『視線だ』




今度は、はっきり分かる。


ギルドの奥。




二階の手すり。




誰かが――


こちらを見ている。




だが、見上げた瞬間。






そこには誰もいなかった。




『……気のせい、か』




「ほら、早く依頼選びなさいよ」




マーシャに急かされ、我は掲示板へ視線を戻す。




だが。




胸の奥に残る、違和感。




『……このギルドには』




我は、確信していた。




『――“規格外の魔力を持つ者”がいる』




理由は分からない。


証拠もない。


だが、


本能がそう告げていた。




「決めた!」




ジークが一枚、依頼書を剥がす。




「害獣討伐!行こうぜ!」




『……よかろう』




我は足を鳴らす。




『Fランクだろうと、何だろうと構わん』




その時はまだ、知らなかった。


このギルドで感じた視線が、


やがて――


我の運命を大きく動かす存在のものだったことを。

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