第4話
「やぁやぁ、後輩くん!!
作品作りは進んでいるかね??」
背後から、やけに張りのある声が飛んできた。
パソコン室特有の、微かに埃と熱を含んだ空気が、その声で揺れた気がした。
振り返ると、先輩が立っている。
いつも通りの調子で、いつも通り少しだけ距離が近い。
「む、先輩……」
私は椅子を半回転させながら、画面を指差した。
「昨日、部長からこんなメールが送られてきたんですが……なんか、作品を『かさ増し』しろって言ってますけど??」
「……どれどれ……?」
先輩は私の背後に回り込み、画面を覗き込んだ。
近い。肘が触れそうになる距離。
先輩は無言で、スクロールもせず、ただ文字を追っている。
数秒。
パソコンのファンの音だけが、やけに大きく聞こえた。
「あー……うん」
ようやく、先輩が口を開く。
「心配するな、後輩くん!!かさ増しの必要は、無い!!」
そう言うなり、先輩は机の横に置いていた紙袋を引き寄せ…
ドサッ。
鈍い音とともに、紙の束を机いっぱいに広げた。
「見たまえ!!私が書きためた、このコレクションをっっ!!」
白い紙。罫線入りの紙。端が少し折れた紙。
一枚一枚に、書いた時間の違いが染みついている。
「これを発表すれば、立派な部誌になるッッッ!!」
その声には、冗談とも本気ともつかない高揚が混じっていた。
「なるほど……!」
私は思わず前のめりになる。
「すごい量ですね……見てもいいですか??」
指を伸ばしかけた、その瞬間。
「なっ!!」
先輩が、必要以上に大きな声を出した。
「何をするんだっっ、君!!
勝手に見るとは、セクハラだぞッッ!」
「えぇ!?先輩が見せてきたんじゃないですか!?」
「文化祭は六月だ!!今から間に合うように準備する!!」
先輩は話題を強引に切り替え、勢いで言い切る。
「後輩くんも、作品を作りたまえッッ!!」
「む、分かりました……」
そう答えながら、私は紙の山から視線を戻した。
なぜだろう。
その束が、ただの原稿には見えなかった。
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