第2話

「部室は……無い!!」


いきなり、断言された。


「主にパソコン室を根城にしている……我々は」


胸を張って言われたが、それは本当に部活と呼んでいいのだろうか。


「なるほど……」


私は納得したふりをしながら、内心で小さく首をかしげる。


「部員は、私と…部長の橘 愛由美。

そして君の、三人だ」


部長の名前を出すときだけ、先輩の声が、わずかに丁寧になった気がした。


「活動内容は……?」


私がそう聞くと、少しだけ間が空いた。


「ない!!」


胸を張って、言い切られる。


「……というか、活動内容は愛由美が決めていてな。

この部活を立ち上げたのも彼女なんだが……」


彼女はそこで一度、言葉を区切る。


「今は入院していて、学校に来れていないんだ」


先輩は困ったように笑った。

その笑い方だけが、やけに大人びて見えた。


「なるほど……」


「指示のメールは来る。

だから、その通りに活動していくつもりだ」


少し声を落として、付け足す。


「退院してきて、自分の思った通りの部活じゃないと……

怒るんだ、あいつ」


短い溜息。面倒くさそうで、でも、どこか心配そうで。

その表情は、不在の部長をちゃんと「部長」として扱っている人の顔だった。


「帰ってくるまで、二人だが……

勘弁してなー」


そう言ってから、思い出したように続ける。


「ちなみに、愛由美のメルアド送るから!」


「えっ」


「入院中は暇だろうし、相手してやってくれ。

……まぁ、長文が来ると思うが」


「分かりました。楽しみですね~」


自分でも驚くくらい、軽くそう答えていた。

先輩は一瞬、目を見開いてから、ふっと肩の力を抜いた。


「あぁ……本当に……

やっと、文芸部が始まる」


そして、少し照れたように言った。


「君のおかげだよ」


その言葉が、ほんの少しの寂しさを帯びているように私には感じられて、少しドキリとした。

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