第18話 【16】勇者の資格



突然ふらりと現れたルオさんにその場はどよめくが、しかしそんなことはお構いなしにルオさんは微笑む。


「そろそろアルが暴れだしそうだからねぇ。ここはお兄さんの出番ってわけだ」

え?暴れだしそう……?アルさんはつーんと明後日の方向を見ているが。

「あれでもかわいい末弟のために我慢してるのさ」

くすくすとルオさんが苦笑する。


「さて、勇者だと言うのなら聖剣を持てるはずだ」

そうルオさんが告げればレインさんが腰に佩いていた剣を取る。

そう言えばレインさんは剣を佩いていたけれどエリオットにはない。


「聖剣……ぼくの……それはぼくのだあぁぁっ!!」

え……さらには他人の聖剣まで奪う気か!?


「大丈夫だ、ロジー。すぐに分かる」

ルオさんは悠長にそう告げ、聖剣に手を伸ばすエリオットをレインさんも無理に止めようとも避けようともしない。何故……。その理由はすぐに判明した。


「うわあぁぁぁぁぁっ!!?」

突如聖剣から電撃が走りエリオットを攻撃したのだ。しかしその攻撃にレインさんは平然としている。


「何で……どうして、ぼくの聖剣……そうかお前が魔法で妨害しているのか!」

エリオットがレインさんを睨むがルオさんはクツクツと笑う。


「それは当然だ。聖剣は勇者や剣聖など資格を持つ者以外が欲を持ち触れれば怒る」

エリオットは欲望のままにレインさんから聖剣を奪おうとした。あれ……ならエリオットには資格がない?


「そ。これは最早勇者ではない」

ロジーさんの言葉にエリオットが瞠目する。


「そんな……ぼくは女神に選ばれた……っ」

確かにエリオットは勇者ジョブを授かったはずである。それなのに……勇者じゃない?


「勇者の素質があれば勇者となる。しかし女神の加護と言うのは相応しくないとされれば消滅するものだ。ジョブも自ずと勇者ではないものに変わるだろう」

「そんな……そんな、ぼくは勇者で……め、メリッサ!」

「い……嫌よ!勇者じゃないなら何の価値もないじゃない!」

メリッサがエリオットの手を弾き飛ばす。


「そんな……ぼくはっ」

メリッサに切り捨てられたエリオットが意気消沈する。しかしメリッサはもうエリオットは用なしとばかりにレインさんに向かう。


「あぁ……あなたが真の勇者さま。どうかグローリアラントにお越しください!」

どの口がそれを言うのか。


「さすれば聖女であるこのわたくしがあなたの妻となり、勇者さまに何不自由のない待遇を約束いたしましょう!」

今まではエリオットをいいように使っていたと言うのに変わり身が早すぎるだろう。しかしレインさんは一蹴する。


「俺はクォーティアの勇者だ。クォーティアの初代……歴代勇者の名に恥じない勇者になると公王さまに誓った身。グローリアラントの手を取ることなどない」

「ま、言い換えればグローリアラントの勇者になることなどクォーティア国民の恥と言っている」

ルオさんがボソリと告げてくる。

「わぁ……痛烈な皮肉」

レインさんは天然かと思えば意思が強いし割と毒舌なのだろうか?メリッサは自分のものにならないと分かった途端。目を血走らせながら叫ぶ。


「クォーティア……このクォーティアめ!どいつもこいつもクォーティアクォーティア!」

「やっぱり本性はそれなんだな」


「何ですって!?グローリアラントの方が何倍も素晴らしい待遇を受けられると言うのに!汚ならしいクォーティアめ……!!」

「クォーティアは汚くなんてない!」

レインさんの言う通りだ。

少しツンデレだが国のためにひとりでも戦おうとする心の強い姫さま。クォーティアを誇りに思う勇者のレインさん。そんな2人が守る国なのだ。きっとすてきな国なのだろう。


「クォーティアには歴代勇者や聖女が多い。そしてみなクォーティアを選んだのだ」

ルオさんが苦笑する。


「あと思い出した。聖女もな、相応しくなければ加護やそのジョブの名が消えるんだよ」

そうニヤッと口角を吊り上げる。

まさかメリッサも……まぁお世辞にも聖女らしいとは言えないからなぁ。その言葉にメリッサは顔を赤くして憤るが。


「それなら証明してみるか?お前が聖女ならば腕を斬られても再生するはずだ。自らの腕で証明するといい」

ルオさんがとんでもないことを言い出したかと思えばアルさんが背に構えた大剣を下ろす。


「い……嫌よ!何で私の腕を……!?そうだわエリオット。あなたが腕を斬られなさい」

「は……?メリッサ!?何を……っ」


「勇者だって言うから色々と便宜をはかってやったのに!とんだ偽物じゃない!」

「そんな……酷い」


「今までの私への非礼を詫びる気があるのならあなたが腕を斬られればいいのよ!治してやるかどうかはあなたの働き次第だけどね!」

いや悪どすぎるだろう。そもそもこの聖女に治す力があるのだろうか。いやそもそもメリッサは聖女と言えるのか。


「そ……そんな……」

エリオットは既に放心常態だ。


「勇者だったから威張れたのに最早勇者ですらないからね」

「そうだね、ルオさん。王女の婚約者の地位を失いさらには公爵家の跡継ぎの座だって奪われるだろうな」

勇者でなくなればあのクズのような長兄と次兄が何をするかなんて分かりきっている。


そして皇天竜はさすがに出て来ない。いやそれどころじゃない上に不気味なほどに静寂を貫いている。


「さぁ、私の聖女の証明にエリオットの腕を斬り落とすのよ」

ひとの腕が斬り落とされると言うのに、何故ああも平然と告げられるのだろう。

さらにそれを治さなければ自分が聖女と証明できないと言うのに、治す気すらない。


「いや……証明はお前がするんだよ」

アルさんの声は何時もよりも低く、そして偽物を嘲笑うかのように凄惨な笑みを浮かべる。


「そうしなきゃ……やらないだろう?」

アルさんも分かっているのだ。そして次の瞬間、メリッサの顔がひきつり断末魔のような悲鳴を上げる。


「ギャアァァァッ!!私の腕が……腕が、誰か治しなさい!治せ!この愚民どもがァァァァッ」

しかしながらメリッサの腕はくっついている。アルさんは動いていない。


「まさか……これって……?」

「そこまでです」

一瞬それが見えそうになったのだが、その犯人が引き戻してきた。


「ロジーにはまだ早いですからね」

ひょっこりと現れたルシルさん。見えかけたそれはいつの間にか何もなかったかのようにひとり叫び錯乱するメリッサしか映らない。


「ナイショですよ」

そう爽やかに笑うだけ。……今さらな気がする。人間の醜い底辺なんて散々見てきたのに。


「進んで見せたい兄などいないよ」

そうルオさんが告げる。

そっか……今の俺はルオさんたちの末弟だもの。アイツらのことなどもう関係ない。


「うん、ルオさん。でもあれはどうするの?」

メリッサに目を向ける。

「どうすんの?シャル」

アルさんがそう呼んだのは学園長である。


「ふむ……そうだね。ひとまず今回の騒動に関わったグローリアラントの生徒たちは退寮、停学処分」

「それはそれは。クォーティアの生徒たちも悠々と学園生活を送れるね」


「こらアル」

「その通りだろう?んであの2人は?」

「心神喪失した王女メリッサは休学、元勇者エリオットも同罪だ。ここに君たちを受け入れる寮はない。国に帰るといい」

学園長が凛としてと告げる。


「ま、結果的にはみな退学処分となるだろうが……国の推薦で来ている以上はグローリアラント宛に退学通知を出すことになる」


「そんなことされたら……」

「もう終わりだ!勘当される!」

「王女さまと勇者が命じるからやったのに」

「こんなことって……」

グローリアラントの生徒たちが項垂れるが、しかしながら自業自得。彼らに与えられる情けなどありはしない。


「これで学園に平和が戻るね」

「学園長としても、学園の平和は守らねばならないからね」


そして魔法学園寮でも寮長のレインさんが戻ってきたことで、グローリアラントの生徒たちに滅茶苦茶にされた寮内も元に戻り始めているそうだ。


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