第9話 ひろみの世界が少し広がった

4年目の秋。

季節の空気が変わるように、

ひろみのほんの小さな変化を

彼は静かに感じ取っていた。


最初は“勘違いだろう”と思った。


ただ、毎晩ほぼ同じ時間はずなのに

LINE電話が微妙にずれたことがあった

それでも、ほぼ似た時間なのに、「今日は早いわね・・」

と言ったひろみの言葉に違和感を感じていた。

4年の直感的な感覚が湧いてきたが、愛がかき消していた


いつもなら何気なく話していた

未来のちょっとした話題も、

どこかひろみが避けるようになっていった。


別れる直前、

彼のつくったスタンプの粘土細工人形が

テレビの前にずっと飾られていたのを

「もう、片付けでもいいんじゃない」と呟いたのは

何かを感じていたからだったが、気付いていただろうか


ひろみとの微妙な揺れ

彼はそれを「疲れ」「忙しさ」「気分の波」

そういう普通の理由に当てはめようとした。


——でも、本当は違った。


理由はあとで、

思っていたよりずっと重い現実として知ることになる。



仕事の会議で年に数回だけ顔を合わせる彼氏。


ひろみは、その彼のことを

「いい人だな」と

以前から感じていたらしい。


ここまでは、大したことじゃない。

誰にだって起こりうる、

ほんの一瞬の心の波だ。


けれどその秋、

その波がひろみの中で少しずつ大きくなり始めた。


でも――今振り返れば、

あの頃からもう、風向きは変わり始めていたのかもしれない。

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