第5話 バトロワ
週末の昼下がり、私はメタルアリーナに来ていた。休日なだけあっていつにも増して人が多い。受付も複数解放されているし、格納庫も全開放だ。とはいえメタルアリーナは非常に広大だから、フィールドがロボットで埋め尽くされることはない。
私はいつもの受付に向かい、格納庫に進んだ。
箱を開くとすぐさま黒い群れが巨人を作り上げていく。起動すれば、黒炎は手のひらを私の前に下ろしてくれた。上に乗ってコックピットまで運んでもらう。
そうして私は今日も王座のような座席に腰を下ろした。
「ありがとう黒炎」
ホログラムの端にグッドサインが現れた。黒炎はバトロワを楽しみにしているのかもしれない。にっこりした絵文字も出していた。
バトロワなんていつぶりだろうか。定石は何となく覚えているけれど果たしてうまくやれるかどうか。不安に思いながら配信をはじめる。
レバーを引いてスラスターを吹かすころには、視聴者が200人まで増えていた。
週末までの三日間も毎日練習をしていて、視聴者数が四桁に達することもあった。
ほとんどは私が三笠と関係があるからみてるだけなのだろうけど。
:今日も曲芸師の時間が来たぜ!
:おっすおっす
:バトロワで無双すると聞いて
「無双できるかは分からないけど、今日はキルムーブするよ」
そもそもバトロワに参加するのは戦うためであって、一位を取るためではないのだ。私は配信画面から目をそらして、急加速で格納庫から飛び出した。
そのままフィールドを横切ってバトロワ専用のマップに向かう。参加者だろうか。複数の機体が同じ方向へと向かっていた。
まるで速度を競い合うかのように、全力でスラスターを吹かしている。
:恒例行事だな
:俺はいつも一位だぜ!
:なおバトロワの成績
:っていうかなんか変な機体多くない?
サブカメラで周囲を見渡すと、確かに妙な機体が多かった。
翼が付いていたり背部のスラスターがやけに巨大だったり、おおよそ公式試合には出場不可能な機体たちが並んでいるのだ。
今回のバトロワが無制限ルールだからなのだろう。
「あの翼は無制限に空を飛びまわれるアタッチメント。あの巨大なスラスターは出力を二倍に強化するやつだと思う」
ロボットには「アタッチメント」と呼ばれる強化パーツが存在している。
公式の試合では使用不可能だけど、今回のような非公式のバトロワでは何の制限もなくつけることができる。
アタッチメントの種類にもよるけど、基本的に改造された機体は非常に高性能だ。
:そんなんチートやん!
:黒炎がめっちゃ弱そうにみえる
コメントを不満に思ったのか、黒炎は怒っている顔の絵文字を送っていた。
:黒炎かわいい
:こんな環境でキルムーブするのか
:流石に曲芸師でも厳しそう
:セーフティーに動いた方が……
視聴者の反応も当然だ。おそらくは武器だって超高性能なものが使用される地獄のような環境だろう。けれど私が戦う相手はあの三笠秋なのだ。
これくらいの相手を倒せなくては、勝負の土俵にも登れない。
「三笠なら突撃してなぎ倒す。だから私もそうする」
:ま、まぁ覇王ならそうだろうけど……
:曲芸師も強いとは思うけどね
:開幕即死に100ペリカ
バトロワのマップまでまだ距離がある。周囲の機体を引き続き観察していると、ホログラムにバトロワの概要が現れた。
参加人数は30人でマップサイズは10km×10km、マップの縮小は5分おきで、一回ごとに移動可能な面積が半分に狭まる、とのことだ。
そして今回のルールでは、補給物資の出現が有効らしい。
:補給物資は使うの?
「使わない。黒炎が生成可能な武器だけ使う」
黒炎はビームライフルと7メートル近いブレード、そして刃渡り1メートルほどのクナイを生成できる。モデルの一つが忍者だからなのだろう。ピーキーな性能だと言われるのも、モチーフに忠実な操作性に調整されているからだ。
:バニラ武器でレールガンやらホーミングライフルやらと戦うのか……
:レールガンって弾速やばいくらい早いよな
:回避軌道通用するのかね
:無理そうじゃね
コメント欄はすっかり冷え切っていた。
覇王ならともかく私はただの淡路の黒い曲芸師だ。驚きはしない。どんな反応でも関係ない。私がみているのは三笠だけなのだから。
やがてバトロワのマップにたどり着いた。高層ビルの立ち並ぶ市街地、森や山、川など色々な地形が用意されている。
ホログラムの指示に従って、市街地のスタート位置まで移動していく。ロボットは巨大だけど、他の機体がどこにいるのかはみえない。
バトロワでは試合がはじまるまでステルス機能が有効化されるのだ。
ホログラムでカウントダウンが始まる。とりあえず山のように守りやすい地形は避けるべきだ。このまま市街地で他の参加者と戦うのが良い。
おおよその行動の指針を立てて私は操縦桿を握り締めた。
そして試合が始まった瞬間、スラスターを100%で吹かし急加速した。敵を探して市街地の大通りを真っすぐ突き進む。試合開始からほんの20秒ほどで右から銃声が響いてきた。スラスターの左右出力を調整し、脚部で地面を蹴とばす。
ほぼ直角のクイックターンで音源に向かうと、ちょうど決着がついた直後のようだ。全身の至る所に追加装甲を付けた、中世の騎士のような白銀のロボットが堂々と立っている。地面に倒れ伏した緑の機体の横で、マシンガンをリロードしていた。
私は即座にブレードを生成して突撃した。騎士も反応するが遅い。
太陽を反射してきらめく両刃の剣が、横薙ぎに首を跳ね飛ばしかけた、その時だった。重苦しい金属音が響き、分厚いブレードが遠くまで弾き飛ばされたのだ。
「なに?」
分からない。騎士は完全な無防備だったはずだ。
私は即座に脚部バーニアを吹かして、宙返りするように騎士と距離を取った。サブカメラに黒い外套のようなものを纏った機体がみえる。遠い。1kmは離れている。高層ビルの屋上だ。
それを認識した次の瞬間には、白銀の騎士の首が飛んでいた。数秒遅れて地鳴りのような射撃音が響いてくる。
「……レールガンか」
銃口が私に向けられる。この距離ではどうしようない。ビームライフルの射程外だ。スラスターを吹かし、ビルのあいだを縫うようにして動く。でもあいつが射撃するたび、凄まじい轟音と共にビルが抉られ遮蔽が失われていく。
1on1なら非常に面倒な状況だ。2on2でも最優先で排除すべき相手だ。でもいま私がやっているのはバトロワ。逃げるのに徹して他の参加者に任せてもいい。
けれど三笠なら問答無用で突っ込んだはずだ。
三笠の才能が圧倒的のは間違いない。でもそれ以上に三笠は自分から厄介な状況に突っ込んでいくことが多かった。その経験が「覇王」と呼ばれるほどの操縦技術を三笠に与えたのだろう。なら、私がやるべきことは決まっている。
「黒炎、あのスナイパーを排除するよ」
ホログラムに満面の笑みの絵文字が浮かぶ。
私は逃げるのをやめて機体を反転させた。
距離も場所も優位な相手に真正面から突っ込んでいく。こんなものは完全に自殺行為だ。コメント欄は阿鼻叫喚の嵐だった。
:乗るな曲芸師!
:うわあああ!
:レールガンに直進はまずい
:黒炎;;
「大丈夫だよ。レールガン相手でも回避する方法はある」
:まじで?
:信じられんが曲芸師ならできるのか……?
「ただし地上では無理だけど」
黒炎は地面を強く踏みしめて空へと飛びあがった。
そのままスラスターを120%まで上昇させる。そしてスーパーヒーローのように全身を地面に水平に伸ばした。
背中のスラスターで加速し、揚力と肩部や腰部のバーニアで重力を相殺する、という飛び方だ。
:まさかア〇パ〇マン!?
:愛と勇気だけが友達さ!
:ネタみたいだけど確かに被弾面積は小さいな
「しかもバーニアを上手く調整すれば自由自在に動ける」
上下左右にぬるぬる動いてみる。レールガンの弾は高速で迫ってくるけれど、照準が外れているようで、かすりさえしない。
もっとも、かするだけでも黒炎には致命傷だけど。
でもビルの屋上で待ち構えていたスナイパーは、諦めたのか伏せるのをやめて立ち上がり、じっと私をみていた。レールガンの銃口も下を向いている。
:お相手のスナイパー呆然としてて草
:爆笑してそう
:そりゃいきなりア〇パ〇マン現れたら驚くだろw
:シュールすぎる
そうして私は難なくビルの屋上へと到達した。けれど相手は完全に無防備だ。とりあえずブレードを生成してみるけれど、このまま倒していいのだろうか。黒い外套を羽織った機体と真正面から見つめ合う。悩んでいると前方から銃声が響いてきた。
よくみるとスナイパーの後方から赤色の光が迫ってきている。
:あっ
:じゃあなスナイパー!
:残念じゃないし当然
ビームがスナイパーの後頭部を射抜く。あえなくスナイパーは屋上へと倒れ伏した。それを機に四方八方から射撃が飛んでくる。私は大慌てでビルから飛び降りた。みんなスナイパーのせいで身動きが取れなくなっていたのだろう。
鬱憤を晴らすかのように戦場は苛烈さを増していった。
そしてその苛烈さの中心にいたのは、なぜか私だった。
地上に降りても四方八方から敵が襲い掛かってくるのだ。ホーミングライフルを遮蔽に隠れてかわしたと思えば、次の瞬間には巨大なスラスターを装着した機体がブレード片手に真正面から突っ込んでくる。
「……望むところ」
小さくつぶやいてブレードを構える。戦いは多ければ多いほどいい。スラスターを100%まで上昇させて突撃した。
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