11. 鐘の鳴らない森
歪角市を後にした二人が夜営の地に選んだのは、かつて「静寂教団」という宗教の本拠地だった廃墟、廃都ナデラだった。奇妙な場所だ。街のいたるところに、枯れ木のような細長い塔が林立している。かつては鐘楼だったらしいが、鐘はとうの昔に落ちて砕け、今はただの虚ろな筒として風を吸い込んでいる。
「……なんか、変な感じだな」
焚き火の準備をしながら、ピクスは身震いした。この廃都は静かだ。だが、グラードがもたらす「強制的な静寂」とは違う。音が死んでいるのではなく、音が「抜け落ちている」ような、空虚な静けさ。グラードは瓦礫に腰を下ろし、目を閉じていた。彼はこの場所を気に入っているようだった。ソルガとの戦い以降、彼の内側では常に遺物の衝動──反動の咆哮──が鳴り響いているはずだ。外の世界が静かであればあるほど、その内なるノイズとの均衡が保てるのかもしれない。
(グラードは、もう寝てるのか……?)
ピクスは毛布にくるまり、炎を見つめた。会話はない。最近、グラードと言葉を交わした記憶がない。ただついていくだけ。影のように。その事実に、ピクスは言いようのない孤独を感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます