EP2:女神からの依頼
「....ミスルガルド?」
時が止まった空間にて、女神ベレニケの言葉に対してそう声を漏らすアン。
彼女のその声には、その言葉があまりにも予想外の話だったからか、冗談だと受け取っているような様子になっていた。
それは他のメンバーも同じだったようで、時間に話を聞いてはいなかったが、それぞれ酒を飲みながら彼女の言葉に耳を傾けていた。
「何それ、TRPG?」
「ではありません。こちらとは理が違う世界の名です」
レベッカがポロッと溢した言葉に対し、そう答えるベレニケ。
その片手にはさっき注文したモヒートがあったため、自称女神なのに酒を飲むのねとボニーは呟いた。
なお、その呟きに他のメンバーが吹き出したのは言うまでもない。
「それで?そのTRPG世界の女神様が私達に何の用ッスか?」
瓶ビール片手にエマがそう尋ねたところ、ベレニケはそのモヒートを一口飲んだ後、その顔に笑顔を浮かべながらこう言った。
「あなた方の噂は聞いています。何でも、神聖なる戦士の名を騙る割にはあまりにも素行が悪いとか」
「素行が悪い....か、耳が痛い話だな」
ベレニケの言葉に対し、それもそうだと言うようにそう答えるオードリー。
ただ、部隊の名前に思い入れがアンとレベッカはというと
「そこら辺は別に著作権とは無いけどね」
「神話ネタは実質的なフリー素材だから、そういうのは仕方ないと思うけどなぁ」
反論するかのようにネチネチとそう言ったため、二人はエマからゲンコツを喰らっていた。
そんな仲間達とは尻目に、オードリーはベレニケを見つめながら飲んでいたカクテルを、ジン・トニックをテーブルにおいたかと思えば、時が止まったことによって静かになったこの状況を利用し、彼女に対して隠し持っていた銃を構えるとこう言った。
「ベレニケ、アンタが本物の女神かどうかは置いておくとして....私達に声を掛けた目的は何だ?返答次第ではお前にエンディングを見せようと思っているが、どうなんだ?」
傭兵部隊の隊長として、ワケも分からない話をするベケニケに対し、誇りとプライドを抱きながらそう言うオードリー。
その言葉を聞いたベレニケはニコッと笑うと、オードリー達に向けてこう言った。
「なるほど、何故あなた達が戦乙女と呼ばれる所以が分かった気がします」
「へぇ、さっきまで清廉潔白では無いって言っていたのに?」
ベレニケの言葉に向け、皮肉混じりにそう言葉を返すボニー。
それは他のメンバーも同じだったようで、クスッと笑っていた。
一方、物怖じせずにそんな『ワルキューレ』の面々を見たベレニケは、クスッと笑いながらこんなことを言った。
「それでこそ....それでこそ、あなた方を尋ねた甲斐がありました」
アン達から皮肉を言われてもなお、笑顔を浮かべるベレニケを見たアンは、その笑顔の裏に隠された何かを感じ取ったのか、彼女が依頼をしにきたことを人物であることを、依頼人であることを察するのだった。
そんな彼女達に対し、心外だなと言うようにベレニケは微笑んでいたため、アン達は更に警戒心を強めていた。
「アンタ、整形手術でもしたのか?」
「まさか、私の顔はミスルガルドを生み出してから一つも変わってませんよ」
オードリーの皮肉に対し、そう言いながらモヒートを飲むベレニケ。
そして、その儚げな瞳でオードリーを見つめると、ようやく話の本題を語り始めた。
「私の管理する世界.....ミスルガルドはあなた方の世界と同じように、常に戦の火種が絶えない世界なのです。幸いなことに、その火種は数年前に鎮火されたのですが」
「また新たな火種が生まれかねない状況だからこそ、ミスルガルドとかいう世界の治安維持をしろと?」
オードリーはベレニケの言いたいことを察したのか、面倒だなと言うようにそう呟くと今度はタバコを吸い始めた。
女神ベレニケからの依頼。
それは彼女達を傭兵部隊としてではなく、治安維持部隊として異世界の平和を守ってほしいとの内容だったので、『ワルキューレ』の面々はマジかという顔になっていた。
「えぇ、そう理解してくださると助かります」
少しだけ引いているアン達とは裏腹に、お願いしますとばかりに笑顔を見せるベレニケ。
その言葉に少しだけ何かを思ったのか、エマは彼女に向けてこう言った。
「なら、私達とかじゃなくて選ばれし戦士とか勇者とかに頼めばいいんじゃないスか?」
彼女達自身は、時折気乗りしないと言う理由で依頼人を裏切ったり、依頼自体を断ることはそれなりあった。
ただ、ベレニケ本人からの依頼は綺麗事と言っても過言ではないモノだったため、彼女達がそんな反応になるのも無理はなかった。
ただ、ベレニケ本人はそのことを予め予想していたようで、そんな彼女達に向けてこう言った。
「そういった人間の上辺だけの正義感と綺麗事だけでは、世界の平和は保てませんから」
彼女がそう言った瞬間、少しだけその言葉に納得せざるを得ない顔になるアン達。
しかし....納得したからと言って、口も性格も悪い彼女達がその依頼を受けるはずもなく、まだ勘繰っているような顔を見せたため、ベレニケは最後の一押しとばかりにとある物を、山のような札束をテーブルの上に召喚した。
その札束を見た瞬間、当たり前だがアン達は目の色を変えていて、何度も札束とベレニケの方を見つめていた。
「報酬は先払いという形でよろしいでしょうか?」
この女、本気だ。
オードリーは長年の勘からすぐさまそう思った後、札束をマジマジと見つめると....徐々に面白いとばかりに口角を上げていた。
傭兵とは言えど、武器やら酒やら移動費やらで金はたくさん掛かるため、彼女達が資金を欲していたのは事実であった。
そのことを突かれたからか、それとも純粋に彼女達の本能が刺激されたのかは分からないが、手を差し出すベレニケに対してオードリーはその手を握り返すと
「あぁ、我々としてはそうしてくれると助かる」
交渉成立とばかりにニヤッと笑顔を浮かべると、彼女に向けてそう言った。
こうして、ミスルガルドの女神ベレニケと契約を結んだ特別傭兵部隊『ワルキューレ』は、異世界の治安維持のために戦乙女としてその地に舞い降りることが決定したのだった。
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