第二章 飲み会、七年ぶりに四人で。
第4話 飲み会、七年ぶりに四人で。(1/3)
「そりゃ」
「実は」
アオの声と俺の声が重なった。
俺はツバサの「カズト、なんでウーロン茶? 酒、ダメなんだっけ?」という言葉に返すところで、アオはリュウセイの何かの質問に答えたところのようだった。
一瞬顔を見合わせた後、譲り合うのも面倒だと思ったので続けた言葉も、重なった。
「明日仕事だからな」
「記憶喪失になっちゃって」
ツバサの箸から、唐揚げが落ちる。
「嘘だ。カズトが、仕事? まっさかぁ。カズトに勤労なんて概念あるわけないないない」
リュウセイが横から舌打ちを飛ばす。
「おい。もったいねえな、それちゃんと食えよ」
「え~、リュウセイ知ってたワケ? カズトが、働いてるって。リアクション薄~」
「あぁ? 俺だって頭おかしくなったのかと思ったに決まってんだろ。ついにカズトが妄想の世界に行っちまったってな。だがマジだ」
「あのカズトが仕事とか。あ、ガチでショック受けてるわ俺。カズトって無職の申し子ってイメージだったからさぁ、つっら~」
「お前らは俺をなんだと思ってるんだよ」
ツバサが落ちた唐揚げを拾わないので、俺が箸で突き刺して口に入れた。旨い。少し冷めている。
このグループがいつできたのかは覚えていない。なんとなく何かのきっかけで同い年が集まるようになって、四人で飲んだり遊んだりするようになった。
「ま~じで時間の流れを感じたわ~。俺も老いるわけよ」
「何歳って設定で生きてるんだよ」
「実際さぁ、脂もんとかきつい日ない? 俺ある~。厚切りステーキ余裕だったのに、チキってロブスターサラダとか言っちゃったりしてさぁ」
「おい、カズト、ツバサのいらねぇ話拾うな。このアホ永遠に世迷い言やめねえぞ」
「ってかさ~。俺たち、最後に集まったのいつだっけ?」
「ツバサがアメリカ行く前だから……七年ぶりとかじゃないか?」
「七年! って事は俺達二十八! やべ~、時間の流れって残酷だよなぁ!」
「うっせーよ、声抑えろ」
「だって驚きじゃ~ん? なんか予想外過ぎて何食ってたか忘れたわ。追加でなんか頼も~」
「自分の歳に驚くなよ、頭おめでてぇな」
久しぶりだなと思った。都内の安居酒屋で、唐揚げや枝豆をつまみながら話していると、それぞれのあまりの変化のなさにタイムスリップをしたような気分になる。
「その、俺の記憶喪失の話にも少しは興味持ってほしいんだけど」
俺のはす向かいで、アオが困り顔をしていた。こいつと会うのも久しぶりだ。気弱そうな下がり眉の顔は、酒を飲めるようになったばかりの頃とほとんど変わりなく、むしろ幼くなった感がある。
「ごめんてごめんて。え~、記憶喪失とかやばいじゃん、おもしろ~」
「テメェは元からボーッとしてんだから変わんねえだろ。気合いでなんとかしろ」
「あ、アオがハマってたゲーム教えてやろっか? 記憶を消してもう一回ってアレがリアルでできるじゃ~ん!」
「うるせえっつってんだろ九官鳥野郎。食いながら喋んなカス」
「あの、俺、ホントに困ってて」
辛辣なリュウセイと適当なツバサに一方的にやり込められているアオが、俺に視線で助けを求めてくる。
ウーロン茶のジョッキを置いて、俺はアオの目を見つめた。
「そうだな。ところで、お前に貸したままだった五千円のことだが」
「おいカズトもそっち側行ってんじゃねえ! ふざけんな!」
「あははははっ、あ、おねーさん。生中く~ださい! あと茶碗蒸しね!」
「てめえだけ頼んでんじゃねえぞ。全員分だ」
「じゃ、生中と茶碗蒸し四つでオナシャ~ス!」
俺が飲まない分、一杯ビールが余るが、ツバサに二杯飲ませればいいだろう。
そっちはほっておいて、アオにたずねる。
「記憶喪失って大丈夫なのかよ」
「それが、本当に困ってるんだよ。俺、なんだか引っ越しするところだったみたいでさ。家具とかも全然ないし、さっさと立ち退いてくれってマンションの管理会社から通知も来てて」
「え~、でも俺達の顔とかわかるんしょ?」
「なんにも覚えてないってことはないよ。でも二十歳くらいからの記憶がぐちゃぐちゃ。カズトの髪が黒くなっててびっくりした」
「はぁ? アオ。テメェ、医者には行ったんだろうな」
「脳の輪切り写真とったよ。問題ないって」
「MRI? めっちゃ怖いよな~。うるさいし。掃除機に吸い込まれるアレの気持ちになるじゃん?」
「飲食店でその虫の話すんなよゴミ野郎。アオ、そんなんじゃ生活していけねえだろ」
「実際そうなんだよね。スマホも見当たらないし、びっくりする日付のカレンダーにこの店の名前が書いてあったからなんとなく来たら、この飲み会だったって感じです」
ビールが来た。
一緒に料理も来たが、茶碗蒸しではなくてだし巻き卵が一皿、四等分されてきた。
混んでいるから仕方がないが、会計の時にもめる気もする。
だが店員に告げる前にツバサが箸をつけたので、ままよ、と俺も自分の取り分を確保した。
「なら、うち来いよ」
卵を口に入れながら言うと、うつむいていたアオが勢いよく顔を上げた。
「い、いいの?」
出汁が口の中であふれて、飲み込むのに時間がかかった。
「おう。部屋、狭いけどな」
「カズトさ~。結局仕事って何やってんの? 合法? 合法? この居酒屋で言えるレベル?」
「俺の仕事は」
最後のだし巻き卵をツバサがかっさらうのを、リュウセイが箸で阻止している。
たしかに、二十一歳の時の俺なら、自分が働いているなんて信じられないだろうなと思った。
「トラックドライバー」
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