第一部 第4話 三人と一匹、旅のかたち

 森を抜けると、道らしきものが現れた。踏み固められた土の感触に、リシェルが少しだけ肩の力を抜く。


「やっと“人の通る道”って感じね」


「獣道だけどな」


 そう言いながらも、ゆうの声はどこか柔らかい。


 セレスは周囲を観察しながら、歩調を合わせていた。


「この先に、小さな集落があります」


「分かるの?」


「魔力の流れが、人の生活圏特有の安定を見せています」


「……便利すぎない?」


 リシェルのぼやきに、セレスは小さく微笑んだ。


「研究の成果です」



 昼前、三人と一匹は小川のそばで休憩を取った。


 ゆうが鍋を取り出すと、もふが期待に満ちた声を上げる。


「きゅいっ」


「はいはい、分かってるよ」


 簡単な炊き込みを作る間、リシェルはセレスを横目で見た。


「ねぇ。セレスはさ、なんで一緒に来るの?」


 率直な問いだった。


 セレスは少しだけ考え、正直に答える。


「観測のため……と言いたいところですが」


 視線を、ゆうに向ける。


「あなたの料理が、間違った方向へ使われないようにするためでもあります」


「……それって」


「守る役?」


 リシェルの言葉に、セレスは頷いた。


「ええ。ブレーキ役ですね」


「それ、私の役目じゃなかった?」


「併用しましょう」


 即答だった。



 食事を終え、もふが満足そうに丸くなる。


 ゆうは、三人分の食器を片付けながら言った。


「俺は、正直よく分からないまま歩いてる」


「でも」


 顔を上げる。


「腹が減ってるなら、食わせたい。それだけだ」


 リシェルは笑った。


「単純。でも、分かりやすい」


 セレスは静かに頷く。


「その“単純さ”が、この世界には必要かもしれません」


 こうして――


 三人と一匹は、それぞれの理由を胸に、同じ道を進むことを選んだ。


 旅は、ここからが本番だった。

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