第一部 第4話 三人と一匹、旅のかたち
森を抜けると、道らしきものが現れた。踏み固められた土の感触に、リシェルが少しだけ肩の力を抜く。
「やっと“人の通る道”って感じね」
「獣道だけどな」
そう言いながらも、ゆうの声はどこか柔らかい。
セレスは周囲を観察しながら、歩調を合わせていた。
「この先に、小さな集落があります」
「分かるの?」
「魔力の流れが、人の生活圏特有の安定を見せています」
「……便利すぎない?」
リシェルのぼやきに、セレスは小さく微笑んだ。
「研究の成果です」
◆
昼前、三人と一匹は小川のそばで休憩を取った。
ゆうが鍋を取り出すと、もふが期待に満ちた声を上げる。
「きゅいっ」
「はいはい、分かってるよ」
簡単な炊き込みを作る間、リシェルはセレスを横目で見た。
「ねぇ。セレスはさ、なんで一緒に来るの?」
率直な問いだった。
セレスは少しだけ考え、正直に答える。
「観測のため……と言いたいところですが」
視線を、ゆうに向ける。
「あなたの料理が、間違った方向へ使われないようにするためでもあります」
「……それって」
「守る役?」
リシェルの言葉に、セレスは頷いた。
「ええ。ブレーキ役ですね」
「それ、私の役目じゃなかった?」
「併用しましょう」
即答だった。
◆
食事を終え、もふが満足そうに丸くなる。
ゆうは、三人分の食器を片付けながら言った。
「俺は、正直よく分からないまま歩いてる」
「でも」
顔を上げる。
「腹が減ってるなら、食わせたい。それだけだ」
リシェルは笑った。
「単純。でも、分かりやすい」
セレスは静かに頷く。
「その“単純さ”が、この世界には必要かもしれません」
こうして――
三人と一匹は、それぞれの理由を胸に、同じ道を進むことを選んだ。
旅は、ここからが本番だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます