第8話 皇帝と王

「げっ、い、いくら何でもそんなに払えねぇよ……」


 エリザは助けを求めてデリルを見る。デリルも泣きそうな顔でエリザに首を振る。確かにゲレオン最高傑作ともなれば一千万オウトくらいの価値はあるだろう。


「高い?」


 ゲレオンが二人の態度を見て上目遣いで言う。「いちおう元手もかかっておるでな」


「ま、そりゃそうよね」


 デリルが納得して頷く。これほどの剣ならどんな希少な素材が使われていても不思議はない。


「お友だち価格で少しおまけしても、七百は頂きたい」


 ゲレオンは腕を組んでこれ以上は一歩も引かんという態度をとる。


「なぁ、何とか……」


「なる訳ではないでしょ! どうしても欲しければ自分で何とかしなさい」


 デリルはけんもほろろにエリザをあしらった。


「爺さん、悪いがコイツは持って帰ってくれ。あたしはデリルと違ってそんなにお金持ちじゃないんだ」


 エリザは渋々ゲレオンに剣を返そうとする。


「な、なに? おぬしの為に作った剣を返すじゃと!?」


 ゲレオンが顔を真っ赤にしてエリザをにらみつける。剣を返されるのはドワーフにとって耐えがたい屈辱なのである。


「もちろん、コイツは気に入ったよ。だけど、とてもじゃないがそんな金は払えない」


 エリザは悔しそうに言葉を絞り出す。


「この貧乏冒険者が! たかだか金貨七百枚が払えんのかっ!」


 ゲレオンの言葉を聞いて辺りを静寂が包み込んだ。


「き、金貨七百枚?」


 エリザが困ったように尋ねる。


「これ以上安くは出来んぞ! 原価割れしてしまうわい」


 一歩も引かない構えのゲレオンに背を向けてエリザがデリルに相談する。


「おい、この名剣が金貨七百枚で良いのか?」


 金貨一枚は一オウト、つまりこの素晴らしい剣を、市販されているバスタードソード(相場は五百オウト)と、大差ない値段で売ってくれると言うのだ。


「さぁ……、でも本人が良いんなら良いんじゃないかしら?」


 ヒソヒソと声を潜めて二人が話しているのをゲレオンがじっと見ている。


「よし、分かった! 最初の言い値、金貨千枚で手を打とう!」


 エリザが振り返りざまにゲレオンに言う。


「何と言おうと金貨七百……、なに? 金貨千枚払うじゃと?」


「ああ、コイツにはそれだけの価値がある!」


 エリザがゴソゴソとふところを探る。「悪い、デリル。祝いは今度持ってくるから」


 エリザはご祝儀としてデリルに渡す予定だった千オウトを取り出した。


「まぁ、あんた、千オウトも包んだの? 気持ちで良いのよ、こんなものは……」


 デリルはエリザが思いがけない大金を包んでいた事に驚きを隠せなかった。どちらかと言えば何でも身体で払うと言って金を出さないタイプである。おそらく帝都で貰った報奨金が気を大きくさせたのだろう。


「それじゃ、これで」


 エリザは千オウト紙幣をゲレオンに差し出す。しかし、ゲレオンはキョトンとした顔で、


「なんじゃい、その紙切れは。そんなもんいらん。金貨千枚の約束じゃぞ」


 と言って受け取ろうとしない。


「これは千オウト札と言ってな、金貨千枚の価値があるんだ」


 エリザが説明するがゲレオンは納得しない。一般庶民にも馴染みの薄い千オウト紙幣を、金本位制で生活しているゲレオンに理解させるのは至難の業である。


「こんな紙切れでわしの魂の剣は譲らんぞ!」


 ゲレオンはそう言ってエリザから剣を奪い返す。


「分かったよ、じゃあ明日、王都銀行で金貨に替えてから爺さんに渡すよ。それでいいだろ?」


 エリザはゲレオンを諭すように言った。


「本当にそいつが金貨千枚になるなら見てみたいわい」


 ゲレオンは胡散臭げに千オウト紙幣を見回す。どう見てもただの紙切れである。


 明日になればあの名剣が自分の物になる。エリザはワクワクしてにやけ笑いが止まらなかった。




「あら? 大きな馬車が止まってるわね、誰かしら?」


 デリルは射場から戻りながら庭に止めてある立派な馬車に目を止めた。それを見たデリルは少しだけ嫌な予感がした。


「デリル、来いと言うから来てやったぞ」


 物々しく手下を率いた王都の王ライサンダーが、大広間に戻ってきたデリルに恩着せがましく言い放つ。


「へぇ、それはそれは。来たければ来ればって書いたんだけど、ライさんにはちょっと難しかったかしら?」


 カチンと来たデリルが皮肉っぽく返す。


「貴様、それが王に対する態度か!」


 側近が間に立ってデリルに突っかかる。


「お前の方こそ、それが『皇帝の客人』に対する態度か?」


 高圧的な側近にペディウスが口を挟む。


「なにぃ? ここは王都だぞ。帝都の肩書など通用するかっ!」


「ほう、では余の肩書も関係ないと申すか?」


 ペディウスがギロリと睨む。傍には大男が控えている。皇帝付きの武官ロドリゲスである。


「今日は帝都から皇帝が来るって伝えてなかったかしら?」


 デリルがペディウスを見ながら言う。


「こ、このガ……お方が皇帝陛下だと!?」


 王の側近が一瞬怯む。


「今日はお忍びだ。多少の事は目を瞑るが……」


 ペディウスがそう言うと、ロドリゲスが王の側近を見下ろしてずいっと間を詰める。「コイツが黙っていられるかな?」


「ひ、ひいいぃっ!」


 王の側近が後退りする。


「デリル、側近の非礼は詫びよう。だが、皇帝まで現れては全面戦争だぞ。それでも良いのか?」


 ライサンダーは一歩も引かぬ態度で圧をかける。


「お忍びだと言っただろう。そちらにその気がなければ戦争にはならんと思うが?」


 ペディウスも負けじと言い返す。若くとも帝都の元首、そう簡単に後には引かない。


「もう! 二人とも大人げないわよ、止めなさい!」


 デリルが二人の間に入る。


「ところでデリル、お前の夫はどこにいる?」


 ライサンダーはキョロキョロと辺りを見渡す。


「そんなのいないわよ」


 デリルが答えるとライサンダーは首をかしげた。







────── 【最後までお読みいただき、ありがとうございます!】


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【デリ豊シリーズ・過去作はこちら】 ※第3部からでも楽しめます!


◆第一部:目覚めし竜と勇者の末裔 https://kakuyomu.jp/works/16817330652185609155


◆第二部:復活の魔王と隻眼の魔導士 https://kakuyomu.jp/works/16818093083366171518

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