第15話 廃墟の女王、摩耶観光ホテル跡

て書く。



 店を出ると、夜の摩耶山はひんやりとしていた。

 ロープウェイの最終までは、まだ少し時間がある。


 掬星台へ向かう道を歩き出したとき、マスターが戸口から声をかけた。


「――ああ、そうだ」


 その言い方は、本当に思い出しただけのようだった。


「帰り、摩耶観光ホテルの横を通るだろ」


 善之は、足を止めた。


「……通りますけど」


麓に行くケーブルカーの駅の隣に立ち入り禁止の道がある。


「なら、ついでに祓っといてくれ」


 あまりにも軽い口調だった。


 直子が振り返る。

「ついで、ってレベル?」


「ここ数日、目が合うんだよ。

 “残ってるの”が」


 マスターは煙草に火をつけ、夜景の方を見た。


「強くはない。

 でもな、選ばれるのを待ってる類いだ」


 その言葉に、空気が一段、重くなる。


 小雪が静かに聞いた。

「ホテルの中ですか」


「上空だ。

 建物そのものじゃない」


 珠緒が眉をひそめる。

「……UFOの件と関係ある?」


 マスターは、答えなかった。

 代わりに、こう言った。


「善之。

 これは“訓練”じゃない」


 初めて、依頼としてはっきりした声だった。


「決断の前に、見るべきものがある」


 善之の胸が、嫌な音を立てる。


「断ってもいいんですか」


「もちろん」


 即答だった。


「ただし、断った場合――

 “あれ”は、別の誰かに寄っていく」


 恵子が低く言う。

「それは、私たちの誰か?」


「可能性は高い」


 直子が、苦笑した。

「選択問題が増えたね」


 マスターは煙を吐き、最後にこう付け足す。


「祓うだけだ。

 深追いはするな」


 そして、本当に“ついで”のように言った。


「成功したら、帰ってきたとき、

 コーヒー一杯おごる」


 それだけ言って、店の明かりは落ちた。


 しばらく、誰も動かなかった。


「……行くよね」


 直子が言う。


 小雪は、すでにホテルの方向を見ている。

 珠緒は、ため息をつきながら荷物を持ち直す。

 恵子は何も言わず、歩き出した。


 善之は、最後に振り返った。


 あの店の灯りは、もう見えない。


「……行こう」


 そう言った瞬間、風が変わった。


 摩耶観光ホテルの廃墟の上空で、

 何かが、気づいた。


 今夜は、ただの思い出作りでは終わらない。

 善之は、はっきりとそれを悟っていた。

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