零 2

零、一緒にこの仕事、やめない?」


そう愛に言われてから2日が経った。俺はまだ悩んでいる。


正直、この仕事には好きで就いた訳でないから執着なんてものはない。しかし、辞めるとなるとこれからの収入は得られなくなる。このご時世、転職なんて簡単にできるものではないし、ぶっちゃけ国軍は高収入で待遇も良い。辞めるメリットはほぼない。なのに、愛はいきなりやめようなんて言い出したのだから不思議なものである。あいつが何を考えているのかは知らないが、俺は馬鹿なことはしたくない。


よし、決めた。愛の提案を断ってこよう。俺はゆっくり歩きだした。



「なぁ知ってるか?A国の大統領が死んだらしいぜ」


「ああ、知ってるよ。それがどうした?」


愛のところへ向かっているとき、そんな会話が聞こえてきた。どうでもいい世間話だ。


「で、大統領が死んだことで軍への指示が行き届かなくて我が国が隙をついてA国の政権を握っただろ?」


「ああ。」


「そのあと起きたでかい暴動の責任を誰かに取らせようという動きができたんだ。あの暴動ではこちらの国の人間の死者もでたからな。」


「なんで責任を取らせようとするのか分からないがな」


俺は気づいたらその会話を盗み聞きしていた。


「で、その責任を取る誰かの候補が、零軍曹と愛軍曹らしい。」


俺はここまで聞くと、すぐさま愛のところへ向かった。今すぐにこの仕事をやめなければ人生が終わる。愛の言ったことは正しかったのだ。


その間に色々考えた。何で誰かに責任を取らせようとするのか、何で候補が俺と愛なのか。


そのうち、愛とすれ違った。彼女は俺に明るく声を掛けた。


「やっほぉ~、零。どう?一緒に仕事辞める気になった?」


俺は即答した。


「今すぐ辞めよう。」


愛はニヤリと笑った。


「じゃあ、決まりだね」




「お前達がここを辞めることは認めない。」


これが上官の発した一言だった。


俺は思わず言い返した。


「どうしてですか!?最近は若者が率先して入隊してきます。人手不足って訳でもないでしょう。それに僕らの代わりなんて沢山いるでしょう!?」


上官は重々しく口を開いた。


「A国の暴動の件を知っているだろう。その責任をお前達に取ってもらうことになった。」


「待ってください!僕らは暴動に一切関与していません。それに、どうやって責任を取れというんですか。」


「落ち着け青年よ。お前達くらい若いのが丁度良いのだ。そういうことだ。国のためにも、受け入れておくれ。」


俺たちはその後も説得を続けたが納得してもらえず、その部屋をあとにした。

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