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――瑠衣は結構、鏡花の事好きだよね。
友人である諭羅は俺を揶揄う様にそう言った。その時俺は眉間に皺を寄せた。
――別に。お前が揶揄いたくなる存在じゃねぇ。
しかし諭羅は何も言わなかった。ただニヤニヤと笑っていただけだった。
俺から言わせれば、鏡花という生き物は人間と言うより獣に近い。三大欲求と自分の『好き』に従順で其から外れると体調を崩したり、やる気を失ったりする。其れが本能的なものであれ、理性的なものであれ、此方からしたら大した差は無い。彼奴は獣だ。
ただゾーンに入った鏡花との知恵比べにおいて、俺はただ後塵を拝するだけの存在になるのでそこだけは認めている。決して口には出さないが、其れをしたら此奴は益々図に乗るので、あえて黙る事で俺の駒を有利に進めている。
そんな獣に近い鏡花に今日も好き勝手に、良いように体を使われ、全てが終わった後に俺にしがみつく様に眠りに着いた。
触られるのは元より好きではない。何が良いのか分からない。意味を伴わないからこそ、自分にとっては無駄に思えてやる気が出ない。
けれどもそんな俺が何故此奴にだけは、深い接触を許容するのか。生身の触れ合いを許容するのか。其れは果たして愛と言えるのか。そんな事をふとかんがえてしまった。
……優越感に浸りたいからか。自分より高尚な生き物が、知恵の産物が、其れに気付かず、俺に従順に、拝すると思って縋り付くのが心地良いからか。この本来ならば制御不能な生き物を、仮初であっても従えているという充足感を味わいたいからか。
そう思うと、何だか俺も種の本能に逆らえぬ事を知らしめられた気がして、酷く失望した。結局俺も、見下して来た連中と大して変わりは無いのだと。そう実感した。
鏡花は変わらず俺の体にしがみつき、ただ安らかに眠っている。此方の矮小さや、自分の高尚さに気付かずただ眠っていた。
変わらず鏡花の柔い体が俺の貧相な体を包んでいる。延々と食い荒らされる砂糖菓子が、全て身になる様に、脂肪を蓄える様に、ただそれだけなんだろうな。
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