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材木吾郎はごく普通の高校生だった。
ゲームが好きで、勉強は苦手で、毎日を退屈だと感じている、普通の高校一年生だった。
日々がつまらない理由は分かっていた。
古典的なRPGでお約束の、伝説の勇者の血を引く者ではないから?
現代的なRPGに出てくるような、スタイリッシュに夜を駆け、『もう一人の自分』の力で戦う特殊能力者ではないから?
それもある。
が、もっと単純な理由もあった。
友達がいないからだ。
凡庸な毎日でも友達と一緒にゲームをすれば退屈さは紛れるだろう。
けれど、彼には友達がいなかった。楽しい時間を共に過ごす相手が、いない。
地味だから?
口下手だから?
暗い性格だから?
……どれでも構わない。
どうせ、直すことはできない。
だから材木吾郎は今日も、一人用のゲームをプレイする。
横スクロールアクションで、一人で遊ぶ。
『昨日、初代をクリアしたんだけどさ、終盤の方に出てくる黄色い一つ目の敵が信じられないくらいに強いんだよ』
そんな風にちょっとした話をしたいのに、話す相手がいない。
中学時代のクラスメイトにとてもゲームが好きな奴がいた。
心底にゲームが好きらしく、友達といつもゲームで遊んでいるらしい。ゲームセンターに行くことも多いようだった。決してクラスの中心人物ではなかったが、常に誰かしらと楽しそうに過ごしている。友達が多いのだろう。
……いいなあ。
成績は悪かったと思う。スポーツはそれなりか。普通の少年に見える。
友達は多い。
自分と同じようにゲームばかりしているのに、彼は友達が多い。
羨ましかった。
『ゲーム』で勝ち抜けば願いを叶えてもらえるらしいが、材木吾郎は自らの願いが分からなかった。
ああなればいいな、こうだったらいいのに、という思いは無数にある。
けれども、いざ「あなたの願いは?」と訊かれると困ってしまう。
それでも『ゲーム』に参加した。
自分は、かつてのクラスメイト――樵木翔真のようになりたかったのだと思う。
どう願えばいいかは、分からなかったけど。
もっと高望みをしても良かっただろうけど。
それが、プレイヤー⑪――材木吾郎の場合。
彼が戦う理由。
戦う理由、だった。
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