プレイヤー
じゃんけんの必勝法。
人生で知っていて損はないだろう。得は…、あるはず…。…多分。
そう、給食の余ったプリン争奪戦を必ず勝ち取れるとか、常に向こうの電柱までランドセルを背負わせたりとか、色々利点はある。
小さなことだと思うかもしれないが、塵も積もれば、と先人は言っているのだから。――それに、挙げた例に関して言えば小石サイズくらいはあるはずだから、山は山でも積み上げれば北岳くらいにはなるだろう――。そういう細々とした幸せを掻き集めてエベレストでもできた日には、かの億万長者達と肩を並べられる………と思う。
あの一つのプリンが、あの日――夕陽のみを背負った帰り道が、幸福の礎となるのだ…!。
――そのはずだった。いや、そうあってほしかったといった方が正しい。
〜じゃんけんすら勝てない人生〜。
そんなサブタイトルの上には、『永井 創』――僕の名前。
哀しきかな…。
嘆いても、十数ページにしては豪勢な厚表紙に記された名前は変わらない。同姓同名の別の誰か――ではなく、綴られた物語は身に覚えのあるものばかり。
…物語となっているだけでも救われたと思う方がいいのか、と自分を慰めたくもなる。
誰でも物語くらいにはなる、というのはそっと見て見ぬふり、諦観と手を繋ぎつつ蓋をして――、さて置いて…。
朝起きてみれば世の様子がどうやらおかしい。奇怪、というか不可思議というか…。
それは、風景がというわけでもなく、朝食の卵焼きが甘くなっただとか、父親の加齢臭がひどくなったとか、母親の口笛が上手くなったとか…そういうものではない。
「行ってきまーす」
袖を通した制服越しに触れる生暖かい空気は確かに久しく思うが――、そういう五感頼りの変化ではない。むしろ内面、第六感とでも言えようか…。
と思索し歩いていると、視界の隅にふわり蝶が舞ったのが見えた。かと思えば次々と何匹もの蝶が薄ピンクに春風を彩る。
――薄ピンク?
浮かんだ疑問に、ぱっと蝶へと目を向ければ、それは蝶ではなく、桜の花弁だった。ハラリ散る花弁は続く無機質なコンクリートにカーペットを浮かべていた。
ああ、そうか。これは、高揚か。
訪れる新たな始まり。僕に限ってと思っていたが――。
膨らむ期待が鼓動に顕れる位には、まだ傍観者では居られないらしい。
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