35話 SAN値

「倒すことは出来ないのか?」

「対抗策があれば出来るかもしれないけど、基本的に戦うのはオススメしない」

「あいつはどうだ」


 エヴァンが言うあいつは受付の裏にいた時に来た謎の人物。あれも人の姿に化けているだけでクトゥルフの神様だし無理だね。


「あれもダメ」

「では広場で遭遇したやつは、偶然戦えるやつだったということか。たしか深きものだったか」

「そうだね」


 肯定したけど、それはエヴァンがいたから撃退出来たこと。いなければ自分は倒れていたと思う。

 街の人たちと同じように。

 

 エヴァンと話し合っていると、ガインさんが受付の人を連れて戻ってくる。なにやら分厚い本を持ってきたみたいだけど、自分の少ない知識ではそれを埋められないかも。

 やるだけのことはするけどね。


「さっき説明したことを一からしてくれ」

「い、いちから?」


 ガインさんと受付さんが席についてからのガインさんの最初の一言には驚いた。

 

 説明できるか不安に思いながらも、ガインさんに説明したことをもう一度説明することにした。

 さっきは余計なことも話し過ぎたから重要なとことははぶかず、丁寧に。

 一気に話し過ぎるとガインさんみたいになるといけないと思って、少し止めながら話していたけど、受付さんの書いている手の動きが早すぎて止める必要なかったかも。

 

 話していないことはもうないと思うけど、心が落ち着かない。いつもなにか忘れ物とかしたときに感じる不安感。けど、何を忘れているのか分からなくて心がすっきりとしない感覚。


「これだけ注意しておけばいいんだな?」

「いえ……。あ、そうだ、一番大事なことを忘れていた」


 思い出した。これが一番大事だよ。


「ステータス表にSANと書かれていましたよね。それを冒険者の方々が帰ってきたときに、毎回確認してください」

「たしかにあるな。そのSANがどうしたんだ?」


 あるのはギルド登録した時に見たから知ってる。けど、受付さんやガインさんの顔を見る限り詳しくは知らなそう。

 

「そのSANは別の呼び方があって、『正気度』とも言うんです。今回の襲撃で発狂したり、気絶した人たちがいたでしょう? その人たちは全員、正気度が減少したからなんです。後で確認してみてください。その人達がギルド登録した時と今のを。確認してみたら減っていると思います」


 SANはSanityの略称で、それに値をつけてシナリオを作っている人や、やっている人達はSANと呼んでいる。よくSAN値ピンチって言葉を聞くけど、それはクトゥルフからきているね。


「減ってしまったやつの対処はどうすればいい」

「減っても会話が出来れば何もしなくていいです。ただ、その中にはおかしな言動や行動をしている人がいます。その人には十分注意を払って看病してあげてください」


 一時的発狂、不定の狂気なんてものもあるけど、私もまだ完全には理解できてない所がある。でも、分かることは一時的が短い時間の発狂。不定が長い時間の発狂だということ。


「看病?」

「はい。例えばですけど、暴れ出す人には抑える人と、発狂している人の心を安定させる人といった感じに」

「それは全員にするのか?」

「全員に抑える人はいらないかもしれませんが、必要そうだと感じた人にはいるかもしれません。どういうものがあるから今から教えます」


 受付さんが新しい紙を準備している間に、ノックしている音が聞こえ、別の受付さんが人数分の飲み物を持ってきてくれた。感謝を伝えて、受付さんが会釈をして帰っていく。その様子を見たエヴァンとゾーイは、飲み物の匂いを嗅いだり、少しだけ飲んだりしている。

 喉がかわいていたのかな。

 

 次の紙の準備が終わった受付さんに参考程度だが、自分が覚えている限りの狂気表を伝えた。


【一時的発狂】

 ・気絶あるいは金切り声の発作

 ・パニック状態で逃げ出す

 ・肉体的なヒストリー、あるいは感情の噴出(大笑い、大泣きなど)

 ・早口でぶつぶつ意味不明な会話あるいは多弁症

 ・探索者をその場に釘付けにしてしまうかもしれないような極度の恐怖症

 ・殺人癖あるいは自殺癖

 ・幻覚あるいは妄想

 ・反響動作あるいは反響言語

 ・奇妙なもの、異様なものを食べたがる(泥、粘着物、人肉など)

 ・昆明こんめい(胎児のような姿勢をとる、物事を忘れる)あるいは緊張症


 本当はサイコロを振ってどれになるか決めるんだけど、ここにはサイコロなんて同然あるわけない。だから数字だけを抜いて教えた。

 一時的発狂だけでこんなにあるのに、これに合わせて不定の狂気もある。こんなの覚えられないよ。私だって最近になってようやく覚えられたんだから。


「……これが全部正気度とやらが減って、会話が出来なくなった状態か」


 受付さんが書いてくれた狂気表を見て項垂うなだれているガインさん。受付さんもこころなしか、絶望しているきがする。

 

「看病する人、そして抑える人も辛抱強い人じゃないと出来ないと思ってください。いつ治まるかは発狂した人次第ですから」


 シナリオだったら時間で決められてその時間安静にしていれば治るけど、ここは現実だ。

 私たちが受付の後ろの部屋で謎の人物に会って、私が発狂してすぐ落ち着いたのは、ゾーイがいてくれたから。

 でも、ここには看護師はいない。だからみんなで支えないといけなくなる。


 話し疲れたし、途中で別の受付さんが持ってきてくれた飲み物を飲んで休憩しよう。

 ところでこの緑色の飲み物なんだろう。ガインさんは普通に飲んでるから平気なのかな。

 中世みたいな雰囲気だから紅茶とか? でも色が違うよね。

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