第16話 3階層探索
—— テスター生活6日目 テストダンジョン3階層 真田 夜雲——
門を潜ると見慣れた広さの洞窟が目の前に広がっていた。
いや、よく見ると左右の壁にホーンラビットが潜んでいる小穴が無い。
「出てくる魔物が違うっぽいな」
不意打ち専門のホーンラビットが地面をウロウロしているとは思えない。となると別の魔物が出てくると考えるのが妥当だろう。
俺は腰からマチェットを引き抜き、慎重にメイン通路を歩き出した。
周囲を警戒しながら進んでいると、2階層より横道が多いことに気が付く。
「これはまた面倒な」
横道が多いということは、それだけ探索に時間が掛かることを意味する。
再びウンザリしながら一番近くの横道を確認する。
横道はメイン通路より狭く、人が三人ほど並んで歩ける程度の広さだ。天井も低く2メートルらいしか無さそうだ。
そのまま奥へと進むが、直ぐに行き止まりとなる。
宝箱も無いのでメイン通路に戻り次の横道へ入ろうとした所、その横道の奥に人影が見えた。
人間のはずはない。この階層には俺だけのはずだ。つまりは魔物。
俺は横道に入るのをやめ、リュックを下ろしマチェットを構え入口で待ち構える。
すると少しして、俺の胸ほどの高さの全身を灰色の毛に覆われた獣のようなモノが横道から出てきた。
その瞬間、俺は躊躇うことなくマチェットをその頭上から振り下ろした。
グシャッという音と共に脳天をカチ割られたソレは、そのまま力なく崩れ落ちる。
頭から血と脳漿を飛び出させ、痙攣し横たわっているソレを見下ろす。
ソレは灰色の毛の犬だった。
体長は120センチほどだが、腕や足が太くかなりの筋力があると予想できる。
二足歩行の犬の魔物はよく知っている。漫画やアニメではコボルトと呼ばれている魔物だ。
「3階層の魔物はコボルトということか」
これは楽でいいな。
不意打ち専門の、いつどこから飛び出して来るかわからないホーンラビットより遥かに良い。
そもそも俺は対人戦の方が得意だ。この階層は精神的疲労が少なくて済みそうだ。
「しかしこのマチェットはよく切れるな」
まさか頭蓋骨を真っ二つにできるとは思わなかった。
切れ味が前のマチェットと比べ段違いだ。刀身に歪みや欠けも無い。やはりただの鉄ではなさそうだ。今後は黒鉄のマチェットと呼ぶか。
黒い刀身を眺めつつ見たまんまの名前をつけていると、コボルトが黒い粒子となって消えていく。
俺はコボルトの位置に残った魔石を拾い上げる。
「魔石はビッグホーンラビットのやつと同じっぽいな。てことはコボルトはF+ランクの魔物ということか」
これは良い、F+ランクの魔石の価格はFランクの3倍だ。つまり一個90DPとなる。
ホーンラビットより倒しやすくて収入は3倍とか、やはり先へ先へと進むことは正解だったな。
あとは何体同時に出てくるかだが、今までの傾向としてこの階層は出てきても2体くらいまでだろう。
次は正面から戦ってみるか。
先ほどは不意打ちだったのでコボルトの強さはわからなかった。あの筋肉量から、かなりの腕力とスピードがあるように思える。
俺はリュックを再び背負い、油断することなく洞窟の奥へと歩を進める。
§
『ワオンッ!』
生意気にもフェイントをかけながら向かって来たコボルトの鋭い爪の一撃を一歩下がって避け、お返しとばかりにマチェットを振り下ろす。
「フンッ!」
『ギャインッ!』
肩から胸までバッサリと斬られたコボルトは、ヨロヨロと数歩進んだのちにその場に倒れ込んだ。
そして少しして黒い粒子となって消えていく。
あれから1時間ほどで十体倒したが、このコボルトという魔物は予想通り力が強くそして素早かった。
基本的には真っ直ぐ向かって来るが、中には今相手した個体のように軽いフェイントを入れてくる時もある。
とはいえコイツらは爪で引っ掻くか、噛みつくくらいの攻撃しかしてこない。せっかくの二足歩行なのに蹴りを放つ素振りすら見せない。
俺としてはこれが3体になったとしても余裕で勝てる自信がある。
不意打ちを警戒せず戦いやすい相手。横道が多いとはいえ、当初考えていたほど探索時間は掛からなさそうだ。
ただ、一つだけ残念なのはコボルトとのエンカウント頻度が、ホーンラビットほどではないということだ。ホーンラビットは2〜3分毎にエンカウントしていたが、コボルトは5分に一度程度だ。これでは魔石の価値が3倍になっても、思ってたほどは稼げないかもしれない。
そう上手くはいかないということか。
そんなことを考えながら残された魔石を拾い上げリュックの中へと放り込み、先へと進むのだった。
そしてそれから2時間ほど探索したところで今日の探索を終え戻ることにした。
§
1階層の転移部屋に着き岩製の自動ドアを開き横道からメイン通路に出る。
目の前を通りかかった生徒たちが、不思議そうに俺を見るが無視して出口へと向かう。
あの様子じゃまだ2階層にたどり着いた者はいないようだ。
初日にすれ違ったバトルスポーツ同好会や剣道部のパーティ辺りなら、もうそろそろ1階層の守護者部屋を見つけるかもしれない。
そう思っていたのだが、生徒たちの後ろを歩きながら安全地帯である広場に出ると当のバトルスポーツ同好会と剣道部。そして空手部や教師たちまで、広場のあちこちで固まり弁当やジュースを床に広げ宴会をしていた。
彼らは皆ジャージやスウェット姿で、どう見ても今日探索したようには見えなかった。
そういえば朝出る時に泉周辺は人が少なかった気がする。
今日は休んでいたのか?
よく考えたら今日は拉致されてから6日目だ。何もわからないまま命の危険のあるダンジョンに放り込まれ、精神と肉体を酷使しなんとか生きていける収入を得ることができるようになったなら休もうと思うのは当然か。
「……俺も休むか」
2階層も攻略したことだし、そろそろ休みを入れてもいいかもしれない。
そうだな、今後は1つか2つの階層を攻略したら休みを入れるようにするか。
そんなことを考えながらマイルームのドアを開け、リュックを下ろしたあと装備を外しシャワールームへ向かう。
今日の壁尻はどの娘が来るかなと考えただけでギンギンになる息子をなだめつつ汗を流す。
それからシャツとパンツ姿でベッドにドカリと腰を下ろし、飲み残していたスポーツドリンクを一気にあおった。
「ふう……」
明日は休みだと思うとなんだか気が軽くなったな。思っていたより精神的に疲れていたのかもしれない。
学園で働いていた時も毎週風俗に行ったり、動画や電子漫画を見てリフレッシュしてたしな。
ここは何もない所だが、壁尻があるから退屈はしないだろう。
「ふむ、なら今日明日は時間を気にせずゆっくり壁尻を楽しむか」
新しい子が来たら前戯を多めにして、ドMサキュバスが来たら洗濯バサミ地獄でイキ狂わせよう。
褐色お姉様サキュバスとメスガキが来たら……諦めよう。あの誘惑と挑発には抗えないものがある。
「さて、呼ぶにしても精算してからだな」
俺は入口に放っておいたリュックから括り付けていた戦利品の武器防具を外し、それらを部屋の片隅に立て掛ける。そして軽くなったリュックを手に取り机へと向かう。
そして魔水晶を起動して画面を見ると、予想通りお知らせのベルマークに『1』と表示されていたのでクリックする。
〈初回2階層守護者討伐報酬として30,000DP(1/1)が贈られます。受け取りますか? (はい/いいえ)〉
「3万か。1階層の守護者の時は2万だったから、1階層ごとに1万増える感じか?」
前回はさらに全テスターの中で最初に階層守護者を倒したということで5万DPをもらえたが、今回はないようだ。前のお知らせを見返してみると『全テスターの中で最初に階層守護者を討伐した報酬』であり、1階層の守護者を討伐した報酬とは書かれていなかった。ということは、あれは全テスターの中で1組だけの1回きりの特別報酬だったってことか。
「まあそれでも3万DPは嬉しいが」
次にリュックから魔石を机の黒い敷石の魔法陣の上に山積みにして換金する。
その結果、合計で6,900DPとなった。
コボルトを確か35かそれくらい倒したから、恐らくだがFランク魔石が125個で3,750DP。F+ランク魔石が35個で3,150DPってところだと思う。
そして最後にアイテムを換金する。といっても銅貨しかないが。
銅貨を換金すると900DPとなった。魔石と合わせれば7,800DPだ。
新しい階層に行き、下見した程度で昨日とだいたい同じ収益だ。次の探索ではもっと稼げるだろう。
ちなみに今日は守護者部屋のを含めて宝箱を6つ見つけている。その内訳はというと。
棍棒×1
革のブーツ×1
投げナイフ×2
木の小盾×1
大銅貨×6
銅貨×30
黒鉄のマチェット×1
ローブ×1
相変わらずハズレ枠の棍棒がアレだし、ポーションも今回は出なかった。が、革のブーツと守護者の宝箱の黒鉄のマチェットとローブは当たりだったので良い戦果だったと言えよう。
DP残高も今回の精算したのと特別報酬の3万を入れれば11万DP越えとなり、とうとう100万円を突破した。やはりソロはおいしいな。
一通り換金を終えた俺は、戦利品を入れるリュックが小さく感じたのでショップで登山用のデカイリュックを購入。さらにポーション用のベルトに固定できる革のポーチや、戦利品の武器防具などを括り付けやすくするためのロープを追加で購入した。
それから夕食セットを購入し、天ぷら定食に舌鼓を打ちながら2セット分を平らげた。
腹がいっぱいになったところでお待ちかねの壁尻タイムだ。
さて、今日は誰が来るか楽しみだ。
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