ひきこもり少女、最強になる―バレたら即終了の魔術学園生活。わたし魔法使えないんですケド……
一翠(ひすい)
第0話「ぷろろーぐ」
無数の人のざわめきが聞こえる。
「大丈夫ですよ。ユイリース様ならきっとできます。だからそんなに緊張なさらないでください」
隣にいるメイドの声が、全く理解できない。
自分の呼吸と心臓の音が鮮明に聞こえる。
鼓動は平常より速く、体温が上昇しているのが感じられる。
わたしは恐る恐る足を踏み出し、数段の階段を昇って壇上へとあがった。
会場内は一斉に静まり返り、人々の視線が一斉にわたしへと向けられる。
さらに鼓動が早まる。
まずい、考えていた台本が完全に飛んだ。
頭が真っ白になり、何も考えられなくなる。
(ええーい、こうなったらヤケクソだ!!)
両手を突き、
☆☆☆すこしさかのぼる☆☆☆
この世界は理不尽だと思う。
私は15年ほど前、帝国でも高名な貴族の家に生まれた。
リクルスフラット家。先祖代々魔法の才に恵まれ、帝国が発足した時から将軍職を世襲してきた名家だ。
一族の系譜を紐解けば、教科書に出てくるような偉人たちの名前がずらりと並んでいるし、わたしの母も5年ほど前まで将軍をやっていた。
そんな家に生まれたせいで、わたしは理不尽を味わうことになった。
知っての通り、わたしは平和を愛する生粋の平和主義者だ。
断じて先祖のような殺しを愛し戦いに恋するような
だのに親戚たちときたら、死ぬほどプレッシャーをかけてくるのだ。
やれ魔法学園主席卒業は確実だの、やれ将来は帝国一の魔法使いになるだの――もうアホかと。
それでも最初は周りの期待に応えるべく努力していたのだが、すぐに挫折した。
わたしには、ありとあらゆる才能が欠如していたのだ。
第一に、魔法が使えない。
第二に、運動神経がゼロ。
第三に、背が小さい。
この三重苦が、わたしの人生を狂わせた。
家柄の都合上、他の貴族から妬まれたり恨まれたりということはよくある。
その貴族同士の駆け引きは、子供たちの間にも伝播する。
そんなこんなで、わたしの人生は苦い思いでしかない。
陰口悪口は当たり前。
靴を隠され、教科書を破られ、時には暴力も振るわれ。
ようするに、イジメられていたのだ。
そのくせ親戚のアホどもは毎年年末の集まりで馬鹿みたいに期待の籠った視線をむけてくるから始末に負えない。
そしてわたしの心は、それらに耐えられるほど強くはできていなかった。
だから、ひきこもることを決意した。
それが3年前のこと。
あれからわたしは、毎日昼過ぎに起床し、優雅にもーにんぐこーひーを飲み、わたしの有り余る知能を生かすために小説を書くという日々を送っている。
そんな日々がわたしにはお似合いだ。お似合いのはずだ。なのに―――
☨
朝だ。昨日の夜カーテンを閉め忘れたのだろうか、わたしとは真逆の、煌めく太陽の光が部屋中を充たす。
だがわたしは絶対に起きてやらない。布団にくるまり、お気に入りのイルカのぬいぐるみに抱き着き、あと2時間は戦う覚悟だ。
だが、ギリギリで保たれていた均衡状態は、一瞬にして崩れた。
いや、崩されたというべきか。
突如わたしが被っていた布団が物凄い力で引っ張られ、はぎとられてしまう。
「うぅ~ん、なに…?」
眠気が残る目を擦りながら、わたしはゆっくりと体を起こした。
「おはようございます、ユイリース様」
いきなり声が聞こえて心臓が飛び出るかと思った。
だが引き換えに、半分微睡んでいた意識は完全に覚醒を果たす。
見れば、ベッドの横に見知らぬ女の子が立っていた。
凛とした佇まいが特徴の、メイド姿の女の子。
「だ、だれだおまえ!!なんでわたしの部屋にいるんだよっ!」
わたしが大きな声を出すと、メイドは一礼をして口を開いた。
「申し遅れました。私はメイリルと申します。本日付でユイリース様の専属メイドとして着任いたしました。以後、お見知りおきを」
わたしはメイドなんていらないのだが。そもそもこいつは怪しすぎる。
「わたしの部屋に侵入して、何が目的だ?誘拐して身代金でも要求するつもりか?」
「いえ、ユイリース様宛にお手紙が届いておりましたので、お届けしにきただけです」
「手紙?そんなもの後にしろ。わたしは今から二度寝するんだ」
わたしはメイドに背を向け、再び布団を被る。
しかし―――
「送り主は、お婆様からですが、それでもよろしいのですか?」
背筋が凍り付いた。
今なんて?お婆様?それはまずい。非常にまずい。
わたしはベッドから飛び起きると、メイドの手から手紙を奪った。
送り主の名前は確かにお婆様だ。
しかも、裏を見ると、一族の長であるお婆様にしか扱うことが許されていない蝋で封がされていた。
「ナイフならここに」
メイドが差し出したナイフで封を開ける。
中には、2枚の紙が入っていた。
1枚目の紙に書かれている内容を読んだ瞬間、わたしの意識は暗い闇の中へと堕ちていった。
☨
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