ARES ― 無名戦士になれなかった英雄達 ―

序章

序章


-この世界では命は羽よりも軽い-



無機質な会議室で作戦のブリーフィングが行われている。今回、陸戦隊第216連隊に与えられた任務はフェアリー王国領内、小惑星への強行偵察任務だ。

会議室のモニターに映し出されたのは番号だけが振られた岩塊で、地形説明は数枚の静止画で終わった。


ブリーフィングは10分で終わる。

質問は出ず、誰も手を挙げなかった。

最後に連隊長から訓示が述べられた。しかし、司令室で見ているだけの連隊長の話を聞く者は誰もいなかった。


霧島透少尉は会議室を出ると、そのまま強襲揚陸艇に向かう。強襲揚陸艇の内部では霧島の中隊が出撃準備を整えていた。

装備を受け取り、固定し、座る。

これで任務の準備は終わりだった。


「少尉」


中隊長が霧島に声をかける。


「どうだ、実戦は。あんまり気負うな」


「ありがとうございます」


儀礼的に返す。

中隊長は部下を名前で呼び誰でも分け隔てなく接する。

だから多くの部下から慕われている。

しかし、中隊長は、霧島が市民だということを知らない。


降下開始の時刻になる。

揚陸艇が一つずつ切り離されていく。


床が、わずかに震え始めた。


この中にある幾つが、帰還できるのだろうか。

考えても意味はない。

だが、考えてしまう。


意味のない戦いが始まる。

しかし、それを止める権限は、ここにはない。

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