第16話 残された沈黙

 数日後‥‥璃久がホテルから転落死した……という知らせが届いた。

「……嘘でしょ……」

 何度目か……何十回目かのリダイヤルをしていた最中、私は持っていたスマホを落とした。

 有馬とは相変わらず連絡が取れなかった。彼の姿を見たのは、璃久が転落死した知らせが来た一週間後。

 それもテレビのワイドショー番組だった。

 有馬がホテルから出てきた所を、レポーターが不意討ちをかけたようだった。

 私はそのテレビの中継を食い入るように見つめる。


『有馬監督、自殺した七瀬璃久さんとの関係について一言お願いします!』

『関係があったという噂がありますが、事実なんですか?』

 

 有馬は質問には一切、答えない。無言で駐車場にあった自分の車に乗り込み、クラクションを鳴らしながら報道陣など目に入らないかのようなスピードで走り去って行った。



『無言のままでよろしいんですか、有馬さん!』

 一人のレポーターが大声で言ったその言葉は、私が言いたい事と同じだった。

 複数のテレビ局が同じように、有馬を追いかけまわしたが、結局、彼は口を開く事はなかった。


数日後……矛先はなぜか私に向けられた。


『藍沢千景と三角関係?』

『若い女優の芽を潰した女王様』

『これでもう千景は終わり』


 知らない誰かが勝手に“物語”を作り上げ、勝手に私を“加害者”に仕立てた。

 誰も私の言葉なんて聞こうとしなかった。

 璃久が自殺だったのか、事故だったのか……その真相も、うやむやにされた。


『遺書はなかった』

『情緒不安定だったようだ』

『藍沢千景からの嫌がらせ』

『仕事のプレッシャーがあった』


 憶測ばかりが記事にされていた。それらは荒唐無稽な内容だったが、私の所属していた事務所はそれを看過できなかった。

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