第4話
長老の帰宅後、私達は次の行動について話し合っていた。
「どうする、久羽? 私はとりあえず、情報屋に行っておきたいけど」
「えー、アイツ嫌い。一人で行きなよ」
ウゲェ。舌を出して、久羽が顔を顰めた。
「そんなに嫌なの、タッピチ? おかしな奴だけど有能だよ」
「ヤダヤダ!? キメェ」
しょうがない。久羽がキモがる理由もわかるため、無理強いはできない。タッピチ、腕は闇市横丁随一だが、性格や変態さも随一の男だ。
彼の異能への執着は目を見張るものがある。
「じゃあ私は、ベアリーと一緒に行く」
「じゃあ俺は留守番でいいか?」
「アップルパイでも作ってて」
武器、使い道はないと思うが腰に短剣を括り付けると扉に手をかける。
「ベアリー!?」
昨夜を最後に、姿が見えないぬいぐるみを呼ぶ。
「・・・反応がない」
またどこかで飛んでいるのだろうか?
ベアリーが居なければ、出発できないのだが。
「呼んだりん?」
「ヒッ」
突然、眼前にベアリーが現れた。逆さ吊りのベアリーが私の視界を覆い尽くす。
「ベアリー!? いつの間に!?」
先ほどまで姿が見えなかったベアリーが、唐突に現れた。異能で音もなく近づいたのだろうが、少し悪趣味だ。
「今から出かけるなら、ベアリーもついて行くりん♬」
「それは心強い」
ちょうどいい囮が準備できた。内心、ほくそ笑むと私は情報屋へ向けて、足を踏み出した。
Π
闇市横丁は相変わらず、怪しい露店や違法な建物が立ち並んでいた。客も店員も目深にフードを被って、顔を隠している。
コレは暗黙の了解のようなものだ。客の安全と、店の安全を守るための措置。なんせ街全体で、違法行為や違法建築が横行しているのだ。
それぐらいの対策をしなければならない。
『タッピチの情報屋』
でかでかと看板の張り出された店の前で足を止める。雑な造りの木造建築。
デタラメな設計で建てられたその店は、建物全体が歪んでいて入るたびに不安になる。
「お邪魔しまーす」
ベアリーを肩に乗せたまま、足を踏み入れる。店内はごちゃごちゃと物が散乱していて、金属パーツや工具が転がっている。
転んだら危なそうだ。
「ぎぇぇぇぇ!? お客! お客!」
「ヒィ!?」
咄嗟にベアリーを盾にして、身構えた。
「鶏?」
店内で唯一整頓された棚の上に、鶏のような物が佇んでおり、ソイツが叫んだらしい。
前来た時は、そんな物なかったのだが。
「おー、一夜ちゃんか?」
がたがたッ! 店の奥から物が落下する激しい音を伴い、カズマスクを被った怪しい男━━店主であるタッピチがあらわれた。
「こんにちは、タッピチ。貴方には会いたくなかった」
「じゃあ、この店で誰に会いに来たんだい?」
意地の悪い質問。苛立たしい。
「・・・タッピチ」
「じゃあ、両思いじゃないかッ!」
そう言って、彼が抱きつこうとしてきた。
「ベアリーガード」
私はベアリーを盾に、その攻撃を躱す。
「わぁ! ベアリーちゃんの翼すべすべぇ」
異能マニアのタッピチは、ベアリーにうっとりした声を出しながら頬擦りしている。
セクハラもいいところだ。タッピチのセクハラは男女種族の垣根を超え、異能者なら誰でも対象だ。とても迷惑な人災である。
「ちょっと、キモいりん!? やっぱり、コイツは嫌いりん!?」
ベアリーは必死にもがいて、腕から逃れようとする。
「【天使の翼】!?」
ベアリーは異能を発動することで、腕を振り切り天井すれすれに逃げ出した。
「あぁ! ベアリーちゃん」
声を落とすタッピチから距離をとりながら、私は話しかける。
「私達がどんな状況か知ってる?」
「もちろん、君達の数倍くらいは」
意味ありげな笑みを浮かべるタッピチ。
さすが、情報屋。話が早くて助かる。
感心するのも束の間、タッピチは私に飛びかかってくる。予測していた私は、華麗にかわす。タッピチは顔面から棚にぶつかる。
「ふぎゃ」
整頓されていた棚から物がバラバラと落下し、鶏が飛び始めた。あれは、鉄?
よく見れば体は銀色に反射しており、それは良くできたロボットのようだった。
「なら、依頼内容もわかるでしょ」
「『ライアー』の情報だろ。依頼金は十万と君達が持っている研究データでどう?」
タッピチは赤く腫れた鼻をさすりながら、答えた。馬鹿みたいなやつだが、やはり有能だ。
「研究データならロケランで吹っ飛んだ」
「・・・マジで? 天下の『アップル・ベアリーズ』が依頼失敗したの?」
その通り過ぎて、ぐうの音すら出ない。
「そう、だから二十万で許してくれない?」
二十万。決して安くない金額だが、それで情報を得られるなら万々歳だ。
「情報屋に嘘は通じないよ?」
こちらを値踏みするような目で、タッピチは見ている。本当は持っているが、惜しんで嘘をついているのか、と疑っているようだ。
「嘘じゃない、情報屋に嘘なんてつけない」
「そりゃそうだよね」
タッピチは奥の方へ向かうと、紙が閉じられたファイルを持ってきた。
「コレが君達が知りたがっている情報」
投げられたファイルをベアリーが受け取る。
「はい、二十万」
できる限りタッピチに近づかないように、店の机に一万円札を二十枚置く。
「毎度あり!?」
一辺倒に飛び掛かるタッピチを躱しながら、店を後にする。頭上には宙を羽ばたきながら、ベアリーがついてきている。
タッピチ。闇市横丁随一の情報屋で、有能だけど変なやつだ。噂によれば、夜な夜な異能を人工的に再現する研究をしているとか。
アホらしい噂だ。あんな異能変態がそんな凄いことできるわけないだろ。
いや、変態の執念なら逆に成功するかも。
タッピチという変態についての推論を立てながら、『アップル・ベアリーズ』に帰宅した。
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